大沼氏と別れたオジサン達はそのまま町中へと繰り出したのだが、Yさんがいきなり「カウンターバーへ行こう!」と言いだした。昨日S2さんと買い物の途中で立ち寄ってすっかり気に入ってしまったらしいのだ。
Yさんを先頭にオジサン達がゾロゾロと町中を歩くと、さすがにこれはいかにも「日本人ご一行様」である。何しろ先頭のYさんが日本から持って来た甚平を着て大股で闊歩(セッタ履いてるともっとサマになったのだが、あいにくビーチサンダルでした。残念!)しているのだから、バリニーズでも判ろうというもの。しきりに店から日本語で呼び込みの声をかけてくる。
店の売り子を冷やかしながら目的のカウンターバーへ到着すると、なかなか可愛い女の子が3人、Yサンの所へ飛んできてカウンターへ案内するではないか。なるほど、こりゃYさん気に入っちゃうわけだ。

女の子3人に囲まれて、「私の日本のオジサン!」と口々に日本語で愛想をふりまかれて、さすがのYさんも目尻が下がりっぱなし。さすが国際観光地バリだけあって、みんな4〜5カ国語ぐらい話せると聞いてオジサン達みんなビックリ!それじゃないとここで観光客相手に客商売出来ないんだろうな〜。
とりあえずビールを注文して、オジサン達は今日一日に乾杯。こちらでは珍しく、ちゃんと冷たく冷えたビールが出てきた事に感心し、突き出しのピーナッツをつまんで今日1日の事をあれこれ話し合っていると、Yさんがピーナッツのおかわりを催促。
丁度切れてしまったので、女の子の1人が奥のレストランへ飛んで行って炒りたてを作って来た。こちらのピーナッツは日本より粒が小さいが、それを油を引いたフライパンで薄皮ごと炒って塩を振っただけ。日本の炒り豆よりも簡単な作り方だが、薄皮が邪魔にならずになかなかの味である。これとビール、最高に合います!
3人の女の子のうち、一番背の低い子はなかなか機転が利いて働き者だ。通りにお客になりそうな人を見つけると、飛んで行って上手にカウンターまで連れて来る。すると今度は、カウンターの中でいろんな国の客どうしが和やかな雰囲気で酒を酌み交わす状態になってしまうのだ。
Yさんはよほどこれが面白いのか、「ほら、また客になりそうなのが歩いてるぞ。飛んでって連れてこい!」としきりにけしかける始末である。
おそらく客を見定める能力があるのか、彼女の連れてきた客はみんな仲良くなってしまう、本当に不思議な能力の持ち主なのだ。
我々も同様にカウンターに座った客といろいろと話をしたが、やはり英語中心の会話ではオジサン達には限界がある。幸い、Mさんが英会話の達人なので、「こりゃダメだ!」と思ったらすぐにMさんにバトンタッチ。通訳に立ってもらい何とかその場を切り抜けたが、けっこう遠い北欧からわざわざバリまでやって来る人達が多い事に我々は驚いてしまった。いろんな国の人達と話も出来、本当にここのカウンターは居心地が良くて最高である。もう毎晩繰り出しちゃおうかな!(その後本当にそうなっちゃいました。)
ここでしばらく飲んでいい気分になっちゃったオジサン達は、もう頭の中が完全にバリニーズとなってしまい大沼氏の「早めに戻るように」などすっかり頭にない様子。「腹減ったからどこかメシでも食いに行こう」と言い出す始末である。
またもYさんを先頭に、いつもホテルへ戻る途中で呼び込みのオバサン(この人→)を冷やかしているレストランへ、冷やかしついでに入ってみる事にした。
メニューを見ると、全部英語と現地語だけでどんな食べ物かちんぷんかんぷん。もちろん写真なんてしゃれた物付いてないのでMさんを頼りに注文したが、何か思ったのと違う料理が出てくる始末である。肝心のビールもぜんぜん冷えてない!(何たって、我々オジサン達はこれが一番重要ナノダ!)
主人が近付いて来たのでMさんから英語で文句を言ってもらったが、「ワタシ、チャイニーズしかワカリマセン?」みたいな顔してしらを切るばかりで話にならない。とりあえず出てきた物をたいらげて、今度は主人に精算を求めると相変わらずキョトンして話が通じないふりしている。
何とかレシートを持って来させ、内容の割にずいぶん高い料金を払うと、何と今度は待てど暮らせどお釣りを持って来ないではないか!
もういいかげんあきれたオジサン達があきらめて店を出ようとすると、先ほどの主人が「ワタシ、オツリの事なんかスッカリ忘れチャッタョ!」みたいなトボケた顔でニコニコしながら頭を下げて来るではないか。呼び込みのオバサンはオバサンで、下手な日本語で「アリガトーゴゼエマスダ!」なんて言ってるが、頭に来ているオジサン達は「バカヤロ〜!こんな店もう二度と来てヤンナイカンネ!」とみんな口々に文句を言っている。
帰り道、Yさんの剣幕たるやそれはもうもの凄い物である。
「あのカウンターバーと比べたら雲泥の差だゾ。商売は正直じゃなきゃイカン!あんな商売やってたんじゃそのうち絶対客が来なくなるからな。あんな店潰れっちェ!ザマミロ。」とか、
「だいたいメニューに写真とか日本語入ってない店って絶対ダメだよナ!あのオバサンの背中に、『この店、お釣りをネコババします!』って大きく張り紙くっつけちゃおか!」とか、
「ちゃんと客にサービスして、きちんとお釣り寄こすからチップでも出そうかって気になるのに、あんなサービスもろくに出来ないでお釣りネコババするんじゃ、ゼ〜ッタイにチップなんかヤランカンネ!」とか、
「毎日あの店の前通ったら、あのオバサン見つけてさんざん冷やかしまくって客引きどころじゃなくしちゃってサ、でもオレたち絶対入るの止めようナ!」てな具合で、まったく昔の悪ガキだった頃丸出しで文句言っているYさんに、みんなほのぼのしたものを感じながらそれぞれしきりに相づち打っているのであった。
こうして翌日から、オジサン達の「悪徳レストラン冷やかし大作戦!」はついに行動開始と相成ったのである。
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