53 「オレステス」スターダス21・研究科1年修了公演

 

2019.3.10

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 声優・俳優養成所のスターダス21で、キンダースペースの原田一樹さんと瀬田ひろ美さんが講師をしている。今回は、原田さんの脚本・演出、そして瀬田さんが演出助手をつとめた「オレステス」を見た。

 瀬田さんのFBによれば「オレステスに繋がる7本のギリシャ悲劇作品を繋いだものです。ギリシャ悲劇7作品をほぼ網羅し、一挙上演は例を観ないものだと思います。その全てを2時間5分でお届けします。」ということだが、まさに、その言葉通りので芝居で、驚嘆した。すごすぎる。

 原田さんの脚本・演出の傑出していることは毎度のことながら、この長くて複雑な芝居を演じたのが、俳優の卵たちであることが信じられないほどの上質な舞台だった。記憶力がきわめて悪いぼくだから、芝居の最初の方こそ次々と登場してくる神々や人間の名前がなかなか頭に入らず、おたおたしたが、それでも、アキレウスだの、ゼウスだの、エレクトラだのといったお馴染みの名前が、ああ、そういう神々だったのねと、だんだん頭の中で整理されていくうちに、いつの間にか怒濤の劇的世界に巻き込まれていった。

 女優陣が特に充実していて驚かされたが、男優陣も頑張っていた。ただ、男の方はどうしても威厳をもった社会的な役割を演じなければならず、彼らの若さでは、それを肉体化してみせるのは至難の業と思われた。まして「英雄」「神」ともなれば、表情ひとつとっても、それを「演ずる」のはほとんど不可能なことだ。だからこそ、昔は「仮面劇」であったのだろう。

 その点女は、嫉妬や愛に狂えば、その役柄(女神だろうと、王女だろうと)を脱ぎ棄て、そのまま一人の女として2500年の時空をあっという間に飛び越える。2500年前の嫉妬も愛も、現代の嫉妬も愛も、なんの違いもないのだ。男だって嫉妬もすれば愛しもするけれど、どこかが微妙に、あるいは本質的に違うような気もする。

 パンフレットに原田さんも書いているとおり、人間の本質は2500年たってもちっとも変わっていない。ギリシャ悲劇は、いつまでたっても新鮮だ。つまり、人間の本質を描いている限り、「芸術」は古びないし滅びないということだ。断片的にしか読んでこなかったギリシャ悲劇を、ここできちんと読みたいと切実に思わせてくれる舞台だった。 

 

スターダス21アトリエ 2019.3.8


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