49 「読解力」がない

 

2018.12.17

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 『深夜食堂』というテレビドラマがある。今放送中というわけではなく、かなり前のドラマだが、Netflixなんかで見ることができるので、昔見たのをもう一度見直している。

 毎回が25分程度の短いドラマで、話としても単純なものだ。歌舞伎町のはずれに、午前0時開店の「めしや」があり、そこのメニューは「豚汁定食」しかないけれど、お客の要望で、作れるものは何でも作るというのがモットーだ。そこには、いろいろな訳ありの人間がやってくる。マスターを演じるのが小林薫だからたまらない。いい味だしてるわけだ。

 で、昨晩見たのは、「タマゴサンド」。タイトルは、いつも客の頼むメニューだ。駆け出しのグラビアアイドルと、新聞配達をしながら大学に通う男の切ない恋。男は田中圭が演じていた。男は明け方ごろに、食パンだけもってやってきて、「タマゴサンドください」と言う。マスターは「あいよ!」といって、その食パンに卵をはさみ、おいしそうな「タマゴサンド」を作って出す。それをじっと見ていた駆け出しグラビアアイドルの女に、男は「よかったらどうぞ」と一切れをわたす。女は、嬉しそうにもらって、おいしそうに食べる。男はその姿をじっとみつめる。「顔になにかついてます?」「いえ、そうじゃなくて、おいしそうに食べるなあと思って。」と男は照れながら答える。それが出会いで、その後、二人は付き合うようになるが、女がどんどん有名になっていくにつれて、男は自信を失い、女から告白されたとき、「君とは住む世界が違う」と言ってしまう。やがて、女はIT企業の社長と結婚することになって、ふたりは別れてしまう。

 そして、ラスト。男は、まだ頑張って新聞配達をしている。失恋のショックからも立ち直り、だいぶ元気になって、「深夜食堂」にもよくやってくる。小林薫のセリフが流れる。「でも、まだタマゴサンドは食べられないらしいけどね。」で、おしまい。

 家内と二人で見ていたのだが、この最後のセリフを聞いて、「え? なんで?」って口走った。だって、昔は食べてたじゃん、急にお金がなくなったってこと? とまで、付け加えた。

 家内は、言下に、そりゃ、思い出しちゃうからでしょう、って言った。あ、そういうことか! なるほど、タマゴサンドがきっかけで付き合った彼女だから、別れた今は、切ないってことね、と納得しつつ、どうしてアナタは、そういうことすぐに分かるわけ? って聞いたら、誰だってそのくらい分かるわよと、言う。

 言われてみれば、まことにそのとおりで、これ以上単純な話はない。それなのに、「タマゴサンドはまだ食べられないらしい」というナレーションを、「まだ失恋の傷が癒えてないからだ」というふうに理解できず、「急にお金がなくなったのか?」なんて、いったいどうしたら考えることができるのだろうか。

 どうも、ぼくは、昔から、頭の回路がどこかで切れているというか、混線しているというか、読解力がないというか、とにかく普通じゃないようだ。

 以前書いたエッセイにこんなのがあります。あわせてお読み頂ければ幸いです。ぜんぜんフォローになってませんが。『「読解力」の彼方に

 


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