36 チェーンソーその後

2011.10.24


 葬儀やら書展やらが重なり、例のチェーンソーの件がそのままになってしまった。前回は、「モノは一週間後ぐらいに入荷するということで、楽しみに店を出た。」というところで終わっているが、確かにそれから一週間後ごろ、入荷しましたとの連絡が入った。その日は、学校があって、家に帰りついたのが4時ごろではなかったかと思うのだが、さっそく店に取りに行った。確か木曜日ぐらいだったと思う。

 今度の日曜日に息子に手伝ってもらって、慎重にやろうと思っていたのだが、いざチェーンソーを手にしてみると、一刻もはやく使わずにはいられなくなった。これはぼくの悪い癖で、めんどくさがり屋のくせに、せっかちである。何事もじっくりと構えて待つということができない。丁寧に、慎重に、ゆっくり時間をかけて物事に取り組むということも極めて苦手である。

 それがいい方に出ると「仕事がはやい」ということになるが、裏目に出ると「仕事が雑だ」ということになる。先日も中間試験で、自分の試験をやっているときに教室を見回るのだが、「今回は小さなミスが一つだけで、後はないと思うよ。」と最初の教室で言ったら、誰も何も言わないので、やれやれと思って次の教室に行ってみると、次々と手があがる。聞いてみると、ここも間違い、あそこも間違いといったテイタラクで、何だやっぱり相変わらず間違いだらけじゃないかとがっかりした。ぼくの作る試験問題は、見た目はとてもきれいなのだが、ミスプリントが多いのだ。これも、「早いが雑」のいい例である。いや悪い例である。

 で、チェーンソーを手にしたぼくは、もう5時を過ぎているというのに、矢も楯もたまらず、ヤマモミジの伐採に取りかかった。実は、庭には2本のヤマモミジがあり、当初は大きい方だけを切るつもりだったのだが、こうなったら小さい方(といっても、幹の太さは10センチを越える)も切ってしまえということで、まずこっちから切ることにした。

 店のオニイチャンの忠告どおり、まず油を入れて(これはマニュアルにも書いてある)、素手で(これはマニュアルには書いてない)、刃の根元の方を(これもマニュアルにはない)なるべく上の方の幹に当ててみた。ものすごい音を立てているチェーンソーは、幹にあたるとオニイチャンの言ってたとおり、ブンと跳ね返る感触がある。ははん、これか、と思いつつ、少し力を入れて幹にあてると、あらあらスゴイ、あっという間に猛烈に木屑を飛ばしながら、幹は切れた。何だ簡単じゃないか。これなら行けるということで、その小さい方の木は、3回ぐらい切っただけで、あっという間に姿を消した。

 それからはもう一瀉千里。大きな方も、がんがん切って行き、これもものの10分足らずで、影も形もなくなった。もちろん、足もとには、切り倒された残骸が山と横たわっているのだが、庭を覆っていた木があっという間に消えたので、狭い庭だが、今までの倍ぐらいの広さに感じられた。

 チェーンソーを使っていて、これといった危険は感じなかったが、スイッチを切る感覚に慣れていないので、ここでモーターを止めたいと思っても、まだスイッチを押していたりして、「やばっ」と思った瞬間が2回ほどあった。特に木を切り終わったときがあぶない。いずれにしても、怪我をしなくてよかった。

 まあ、今回に限っては、仕事がはやく、しかも雑ではなかったので、しばらく自己満足に浸ったのだった。

 しかしそれにしても、ブーンとうなりをあげるチェーンソーを手にしていると、まるでシルヴェスター・スタローンになったような気分になって、木を切り倒した後も、庭に仁王立ちになって、さあ今度は何を切ってやろうかとあたりを見回した。しかし、切るものはもう何もなかった。ちょっと物足りなかった。

 今後このチェーンソーの出番があるだろうか。たぶん、大型ゴミとして出さざるをえないような家具類が出てきたら、これで切り刻んでしまおうということになるだろう。家具なんかも切れる? とお店でオニイチャンに聞いたとき、彼はニッコリ笑って「家具は切れます。」と自信たっぷりに言った。「ただ、ネジとかクギなどの金属類は必ずはずしてからにしてください、そうしないとあっという間に刃がこぼれてしまいますから。」と付け加えるのも忘れなかった。

 その日を楽しみにするとしよう。


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