18 鳥の指は何本?

2011.7.23


 この夏休みには、水墨画を徹底的に練習するなんてこのエッセイで宣言した手前、何とかせねばということで、数冊の水墨画の技法書を買ってきた。入門書的なものは数冊持っていたのだが、もう少し細かいことが書いてある本をと思って、「小鳥の描き方」というのを買った。

 洋画系の水彩画とは違って、東洋画系の水墨画では、それぞれの題材には決まった描き方があるので、こんな「専門的」な本もあるわけである。しかし、さすがに現代の本だけあって、やはりまずは実際の小鳥をスケッチしましょうなんて書いてある。スケッチしましょうなんて言われても、素早く移動する小鳥をスケッチするなんて至難の業。写真を撮るのだって大変だったのに、スケッチなんて到底無理だ。だから、そんなことは無視して、とにかく「描き方」のところを読んだり見たりしていたのだが、さすがに詳しい。枝にとまっているときの足と、地面に降りているときの足はこうなっていますなんてことが分かりやすく描かれている。

 それを見ながら、ふと、鳥の指っていうのは何本なんだろうと思った。お手本の絵を見ると、4本だが、何しろ絵のことだ。省略があるかもしれない。本当は何本なんだろうと思った。考えてみれば、鳥の足の指の数なんて、今まで一度も気にしたこともなかったし調べたこともなかった。一時はあれほど野鳥の撮影に熱中し、それなりの写真も撮ってきたというのに、指が何本かは知らないなんて恥ずかしいことではないか。

 その昔、妹にニワトリの脚を描かせたら、3本描いたという「事件」があって、今でも我が家では語り草なのだが、こんなことでは妹の轍を踏むことになりかねない。それで調べてみたところ、いろいろ面白いことが分かった。

 鳥の足の指は基本的には4本である。前向きに3本、それとは逆の後ろ向きに1本ついている。この逆向きの1本が、第1趾で、人間でいうと親指にあたるようである。3本と1本が向かい合ってついているために、枝に簡単にとまれるというわけだ。そういえば人間の場合も、親指の関節だけは自由に向きを変えられるから、鉄棒にぶら下がることができる。人差し指から小指は、親指のようには自由に動かない。ところが人間の足の指は5本あるが、みんな上下(?)にしか動かない。もし足の親指が手の親指のように動いたら、人間もコウモリのように足の指で木にぶら下がることができるのに、残念なことだ。人間は昔から、ただ歩いたり走ったりすることに夢中で、木からぶら下がっていようなどとは思わなかったから、こういう足になったということだろうか。

 話を鳥に戻すと、向かい合っている指の数が、2本と2本(対趾足、と呼ぶそうだ)という鳥がいて、これはキツツキの仲間だ。なるほど、キツツキというのは、主に木の幹に垂直にとまるので、この配置は実に納得できる話だ。あまり枝にとまることのないチドリの仲間などは、後ろ向きの指が退化して3本だったり、水鳥には水かきがついていたりと様々で、いちいちなるほどと面白かった。

 しかし、こういう進化の話を聞いていつも不思議に思うのは、キツツキは幹に垂直にとまっているうちに、とまりやすいように対趾足になったのか、それとも、対趾足だったから幹に垂直にとまるようになったのかということだ。いったいどっちなんだろう。前者が進化論の考え方だが、それが正しいなら、どうしてキツツキだけが幹に垂直にとまろうとしたのだろうか。それが分からない。不思議だ。進化論は、合理的なようでいて、分かりにくい。

 まあ、それはそれとして、この指の話は、更に奥深くて、前足つまり羽の指をいろいろと調べた結果、親指・人差し指・中指の3本であることが分かり、これによって鳥が恐竜から進化したことが証明されたということらしい。詳しいことは知らないが、これもなかなか興味深いことだ。

 いろいろと調べて、さて、鳥の絵を描いてみてはいるが、どうもマンガみたいになってしまう。まだまだ前途遼遠というところである。


 

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