17 ドアを閉めま〜す

2011.7.20


 サスペンス系の2時間ドラマを長いこと見続けてきているが、だいたい最初の5分見ると、その作品の傾向が分かる。もちろん見なくても分かるシリーズものもある。最近ではいちいちつき合ってもいられないという気になってきて、例えば泉ピン子が主演だったら絶対見ないとか、「温泉女将系」とか「観光バス系」とかは、原則として見ないとかいうふうになってきている。

 これはどういうもんかなあと思って見始めても、20分ぐらいで我慢できなくなって見るのをやめるということもある。そうかと思うと、脚本も役者もどうしようもないなあなどと思いながら、ダラダラ終わりまでみてしまうものもある。まあどうせ途中で寝てしまうのだから、どうでもいいといえばいいのだが、それにしても、もう少しマシなものを作ろうとしろよと言いたくなるものもある。

 ダメなドラマは、まず音楽がダメだ。探偵が探索している場面で「ピンクパンサー」の曲を平気で流したりするのを見ると、よく恥ずかしくないなあと思う。これでは「全員集合!」と同じレベルではないか。かと思うと、アクションシーンで、「スパイ大作戦」の曲を流してみたり、とにかく安易なのだ。やる気が見えない。いやいや作っているとしか思えない。

 先日も、そういった類のモノを見ていたら、グルメ評論家だかが登場してきて、フライドチキンに関するウンチクを垂れる場面があった。フライドチキンというのは骨まで食べられる。(のだそうだ。骨まで食べた経験がないから本当のところは分からない。)どうしてかというと、もともとフライドチキンは、黒人の奴隷が考え出した食べ物で、肉の軟らかいところは白人に食べられてしまうので、残りの骨を食べられるように低温の油でじっくりと揚げたのである、というようなことをしゃべっていた。これは初めて聞く話なので、眠気も覚めて、ドラマの下手さも忘れて、ヘエーっと思った。

 そのうちそのグルメ評論家が殺されて、犯人探しが始まって、ああコイツが犯人なのに、何やってんだかと思って見ていると、今度は鉄道オタクの、刑事ではないのだが、犯人を追う若いヤツが、犯人がアリバイのためにかけた留守電からアリバイを崩すというシーンで、またヘエーって思った。

 犯人は、JRの只見線の駅から電話したように見せかけて、それをアリバイ証明にしようとしたのだが、実は犯人が電話したのは只見線の駅ではなかった。そこまではぼくも分かった。こういう場合、犯人の声の向こうから聞こえてくる音が証拠となる。ぼくが、ああこれは只見線ではないなと思ったのは、録音されていた発車(停車かも)する電車のモーター音が、京急の電車のものらしく聞こえたからだ。殺人現場は、京急の穴守稲荷の駅のそばという設定だったので、余計に確信を深めていたのだ。ところが、そのテッチャンが言うには、「いいですか。車掌のアナウンスは、鉄道会社によってそれぞれ違うんです。今、このアナウンスは、『ドアを閉めま〜す。』って言ってますよね。JRは『ドアが閉まります。』って言うんです。『ドアを閉めま〜す。』って言うのは、京急だけなんです。」

 これには参った。そうか、そうなのか。JRも京急も、もう嫌というほど乗ってきたのに、そんなことにはちっとも気づかなかった。数あるアリバイトリック破りの中でも、これは秀逸といっていい。西村京太郎も真っ青である。

 脚本の全体的な作り方は下手でも、この脚本家の変な知識が生きたといったところだろうか。あるいは、誰かの入れ知恵だろうか。とにかく感心した。

 まあ、こういう一カ所でも、光る部分があれば、この手のドラマはいいのである。あとは全部、許す。


 

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