39 バスが来るまで

 

2018.6.30

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 我が家から歩いて15分ぐらいのところに「汐見台3丁目」のバス停がある。ぼくは、月2回、磯子駅近くでの書画教室に通うために、このバス停を利用する。気候のいいときは、このバス停までの坂道を歩くのだが、雨が降ったり、暑い日には、このバス停まで別のバスを使う。我が家の近くのバス停から京急バスに乗ると、このバス停まで行ける。で、ここから市営バスに乗り継いで磯子駅まで行くわけである。

 もう少し詳しく書くと、京急上大岡駅を始発とする「汐見台団地循環」の京急バスと、JR磯子駅を始発とする「汐見台団地循環」の横浜市営バス(正確には、市営ではなくて、この系統は、「横浜交通開発」という会社に委託している。)とが、ちょうど、「8」の字のように、「汐見台3丁目」で交わっているのである。一日に、10本程度は、上大岡駅から磯子駅への直通の京急バスはあるが、教室の時間に都合のいいのはないので、こうした乗り継ぎをするしかないのだ。我が家から磯子駅までは、4キロ程度なのに、なかなかめんどくさいことである。

 で、昨日もあまりに暑いので、京急バスで「汐見台3丁目」のバス停まで行き、そこのベンチに座って、市営バスを待っていた。待ち時間は15分以上もある。カンカン照りで、ベンチも思わず飛び上がるほど熱い。帽子が必須である。

 帽子を被って、ベンチにうなるようにして座っているところへ、どこからか、オバアサンが現れた。80歳を超えている。時刻表に目を近づけて見ている。ふと見ると、そのオバアサン、毛糸の帽子を被っている。上着も冬物みたいなジャッケトだ。

 ああ、26分かあ、とため息。ぼくは20分だ。乗るバスが違うのである。ちなみに12時台の話。真昼である。

 暑いねえ、と、ぼくはなぜか、声を掛けた。

 ああ、暑いねえ、といって、帽子に手をやり、今日はさ、風が強いでしょ。だからこれ被ってきたのよ。夏物だとね、ヒモがついてないから飛ばされちゃうのよ。これはさ、冬ものだけどさ、しっかり被れるから飛ばないと思ってね、なんて、聞いてもいないのに、「毛糸の帽子を被っている理由」を説明する。ぼくの目が、オバアサンの帽子に向いていたのだろうか。ぼくは若いころ、電車の中で座っていただけなのに、刑事に間違われたことがある。目つきが悪いのかもしれない。

 「毛糸の帽子」のわけは分かった。確かに、かなりの強風である。しかし、暑いだろうなあ。

 上大岡まで? そう、上大岡まで行ってさ、また乗るんだけどね。どこまでいくの? 銭湯へ行くのよ。銭湯って「三浦湯」? いやそっちじゃなくてさ、港南中央のところに川があるでしょ。あの川のそばにあるのよ。今はさあ、煙突がないからね、分からないけどさ、あるのよ。今じゃ、ほら、湧かすのに薪を使わないでしょ、だから煙突がいらないんだってさ。(別に、「あるわけない」と言ったわけじゃないのに、「ある」ことをやたら強調する。これも、ぼくの目つきが「疑ってる」感をかもしだしていたのか?)

 そういえば、あった。そのあたりには、ぼくの小学校の担任の先生の家があり、数年前にも行ったことがある。(家に帰って家内にその話をすると、先生の家の前が銭湯だったじゃないの、という。そうだ、そうだった、と後で納得。)

 じゃ、そこ行ってのんびりするんだ。そうよ、一時間ぐらいね。でもさ、そこ3時からなんだけどさ。え〜、じゃ、まだ2時間以上もあるじゃない。そうなんだけどさ、うちのオヤジがさ(一瞬、オヤジって誰? って思ったけど、まあ、亭主だろう。ジジイって言わないだけいいや。)、早く行けってうるさいからさ、出てきたんだけどね。まあ、ヨークマートで買い物するからいいのよ。でも、朝にはさ、OKストアで買い物したんだけどね。じゃ、お風呂から帰ったら、ご飯のしたくするの? 大変じゃん。いやあ、「したく」っていったって、ほら、缶詰とかさ、今はいろいろあるからさ、たいした料理なんかしないよ。うちのオヤジはさ、毎晩ショーチュー飲むし、ほら宝焼酎。あれにさ、氷入れて飲むんだよ。冬だってなんだって氷なんだから。それからご飯たべて、テレビ見て、寝るのさ。

 じゃ、今日はサッカー見るの? 見ない見ない。うちはさ、野球。プロ野球。見てるうちに寝ちゃうよ。あはは、ぼくも、ドラマ見て寝ちゃうなあ。

 たわいもない高齢者同士の会話である。炎天下の15分。バスが来た。

 


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