75 ダブルブッキング

2016.2.21

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 ぼくが所属している書道団体は現日会というのだが、毎年夏と春に書展がある。その書展に毎回出品するのが半ば義務のようになっているので、ぼくも当然のごとく毎回出品しているわけだが、出品までがけっこう大変で、師匠の指導を受けながら、ああでもないこうでもないと作品作りを1〜2ヶ月続けたあげく、師匠からこれでいいでしょう、と出品の許可がおりると、ほんとヤレヤレと安心する。安心する間もなく、次の書展への出品作をどうするかを考えることになるので、これが日常化すると、肝心の書展がいつだったのかすらはっきり意識しないということにもなるわけで、特に、ぼくのような浮ついた日々を送っているウッカリ者は、作品の審査がいつ行われ、書展がいつからいつまで開催され、懇親会がいつ行われるのかということが意識の中にはっきり定着していないという事態がほぼ常態となる。

 今年の春季書展への出品作の制作は、去年の12月がいろいろと忙しく、一度も師匠に作品を見ていただく機会もなかったために、1月の末近くになってようやく完成して出品になんとか間に合った。2月に入り、現日の春季展ももうすぐ始まるなあなどと思っていたのだが、去年の夏の書展のときなどは、審査日が気になっていたのに、今回はそんなこともすっかり忘れてノウノウと日を送っていた。そんなある日、ちょうど一週間ほど前に、突然、今回の作品が「同人格奨励賞」を受賞したとの知らせが入った。師匠も喜んでくださり、19日の授賞式は、18時から始まるので、15分前には着席していてくださいとの指示もメールでいただいた。

 現日会には、「準同人」「同人格」「同人」という序列のようなものがあり、その「同人格」に、ぼくは一昨年なったばかりで、その「同人格」で賞をいただくなどということはそれこそ先の先、ぼくが生きている間にはないんじゃないかぐらいに思っていたので、すっかり舞い上がってしまった。

 家内も喜んでくれたが、19日の授賞式ということを耳にした家内は、「その日は、お芝居があるんじゃないの?」と言う。あわててカレンダーを見ると、確かにその日には「スターダス 14:00〜」とあり、現日会懇親会(授賞式はこの中で行われる)とは書いてない。しかも、この懇親会には出席のハガキも出し、会費も収めてあるのである。それなのに、カレンダーにも手帳にも予定を書いてない。

 「スターダス21」は、ここの俳優養成所で、キンダースペースの原田一樹と瀬田ひろ美が「先生」をしているところで(註)、去年キンダーの芝居を見たあとの打ち上げで、ここの「生徒」二人と一緒になり、こんど卒業公演をするんですと言うので、じゃあ、見に行くから日程が決まったら教えてねと言っておいたのだ。ぼくの教え子瀬田ひろ美の教え子だから、いわば「孫教え子」みたいなものだし、男女二人がとても素直で、ぼくの長ったらしい話も真剣に聞いてくれたりしたものだから、是非見たいと思ったのだ。しかも、チェーホフの『かもめ』をやるという。

 そして後日、日程が知らされた。2月19日の14時半と、20日の18時半だという。やっぱり昼間のほうが何かと楽なので、躊躇なく19日の14時半を予約した。それが1月12日のことだった。(ちなみに、現日会の懇親会の参加通知は去年の12月に既に済んでいたのである。)

 これで見事にダブルブッキングが成立したわけだが、そのことをぼくはその時知る由もなかったのである。

 で、当日どうなったかを詳しく書いているとキリがないので、当日のフェイスブックへの投稿を引用しておく。

★これから、スターダス21の『かもめ』を見る。はやく着きすぎて、公園でのんびり。暖かくて気持ちいい。(19/13:30)
★さて開場して、入ったのだが、終演時間を聞いてビックリ。17:30だという。実は、今日は、現日会の懇親会の前に表彰式があるのだ。今回、受賞するなどと夢にも思ってなかった私は、懇親会に出席の申し込みをしていたにもかかわらず、すっかりいつだったかを忘れてしまっていて、芝居のチケットを予約していたのだ。そのことに気づいたのは受賞がわかった後。しかし芝居は14:30からだし、受賞式は18:00だから、余裕で間に合うと思っていたのだ。芝居は長くても2時間ぐらいだろうと思っていたのだ。ところが、これじゃあ間に合わない。途中で退場することも考えたが、やっぱり全部見たい。で、明日また来ることにした。3時間余った。今、小竹向原の変な喫茶店で、コーヒー飲みながら、これを書いて時間をつぶしている。いつものことながら、お粗末なことである。それにしても、この喫茶店の客層って、、(19/14:40)

 こうして、なんとか余った時間をつぶして、懇親会に出席し、授賞式にも参加でき、おまけに受賞のスピーチまでするはめとなり、おきまりの「長すぎるスピーチ」となり、それでも、最高に幸せな時間を過ごしたのだった。

 それで、昨日、改めて「スターダス21」の卒業公演『かもめ』を観た。2時間40分という長い芝居だったが、飽きることはなかった。時間が短く感じられるほどだった。もちろん、卒業公演ということで、ベテランの俳優が演ずる芝居には遠く及ばなかったけれど、若い人達が懸命になって演ずるチェーホフは、かえって芝居の骨格が鮮明に浮かびあがり、改めてチェーホフの芝居の素晴らしさを実感したのだった。

 ひいき目かもしれないが、ぼくの「孫生徒」、近藤絵梨佳さんと宮西徹昌君の演技が際だってよかったなあなんて思いながら、夜の電車に揺られていた。

 


(註)これを書いてアップした後、調べたところ、「スターダス・21」で先生をしているのは、正確に言うと原田一樹さんだけで、瀬田ひろ美さんは「声優」所属でした。ただ今までそう思い込んでいたぼくの「ドン・キホーテ的思いこみ」ということで、訂正せずにこのままにしておきます。

 


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