57 嫌な匂い

2015.10.13

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 以前はそうでもなかったはずなのだが、最近どうも匂いに敏感になってきたような気がする。特に深夜の電車がいけない。

 都内の王子あたりで深夜まで仕事をすることがあって──これは学校を退職したあとに残っているただ一つの仕事なのだが──たとえば、夜の10時ごろに王子駅から京浜東北線の大船行きに乗ったりすると、乗り込んだときはガラガラだが、上野あたりまで来るとだんだん混んできて、東京駅に着くころにもなれば、満員電車になってしまう。

 王子を9時ちょっと過ぎぐらいに乗れれば、品川で京急に乗り換えて、「ウイング号」に乗れば、200円で(もうすぐ300円になるという噂がある)必ず座れてしかも品川の次は横浜をすっ飛ばして上大岡停車という、まさにぼくのための電車のような快適さであり、しかも、我が家のすぐ近くに止まるバスの最終に乗れるわけなのだが、王子を9時半すぎてしまうと、「ウイング号」はもうないから(品川発10:05が最後の便)、結局京浜東北線に乗り続けて、磯子まで行くことになる。王子から磯子まではだいたい1時間5分ほど。ずっと京浜東北線の固いイスに座っているのも難儀なのだが、電車はもう、途中で乗り降りはあるにしても、ずっと満員で、しかもそのほとんどが酔っぱらいである。この酔っぱらいの匂いにだんだん耐えられなくなってきているのである。

 先日などは、それほど混んではいなかったのだが、品川あたりから乗ってきてぼくの前に突っ立って、つり革にぶら下がるようにしている40がらみの男から、もつ焼きだか、焼酎だか、焼き肉だか、なんだか分からないが、そんなものが雑然と渾然と混じり合ったような匂いが断続的に襲ってきて、気持ち悪くなりそうだった。

 もっとも時間によっては、ぼくも酔っぱらいになっていることもあり、そんな時は、こっちだってろくなものを食ったり飲んだりしてるわけではないから、文句も言えないし、第一、匂いも気にならない。しかし、こっちがシラフのときは、ほんとにたまらない。

 「女性専用車」ってのがあるくらいなんだから「シラフ専用車」ってのがあってもいいんじゃないかと思うほどだ。

 「ウイング号」なら快適かというと必ずしもそうではなくて、稀に、隣に座ったヤツがビールなんか飲み始めることがある。(ウイング号は、二人席)先日も、30代とおぼしき男が、品川を出るやいなや500ミリリットルのビールを飲み始めた。当然のことながら、おつまみも持参していて、ビニールの袋からなにやら取り出して、食っちゃ飲み、食っちゃ飲みしている。当人にしてみれば、至福の時間なのだろうが、ときどき、つまみの匂いがこっちに漂ってくるのだが、それがなんか変な匂いなのだ。それほど特殊な、クサヤとかトウフヨウとか、そんな変なものを食べているふうでもなく、普通のおつまみらしいのに、ビールの匂いに混ざって漂ってくると、不快極まりない。でもまあすぐに終わるだろうと思っていたら、30分たっても終わらない。ビールも二本目に突入というところでぼくは上大岡で降りることになったのだが、200円損した気分だった。

 300円になったアカツキには、飲食禁止にしてもらいたいものだ。「禁煙車」があるのだから「禁飲食車」があってもいいじゃないか。

 こんなことを考えるというのも、歳をとるとともに、段々人間が不寛容になってきているからだろうか。子どもの頃は、排気ガスの匂いが好きで(ぼくだけではない、友だちはだいたいそうだった)、トラックやバスが走りさるとその後を追いかけて、排気ガスを胸一杯吸い込んだりしたものだが、しかしそれは寛容というよりはバカだっただけの話で、そんな子どもでも、歳とともに「いい匂い」と「わるい匂い」をきちんとかぎ分けられる人間に成長したということなのだろうか。よくわからない。


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