55 「ゴミ屋敷」への道

2015.9.29

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 「雀百まで踊り忘れず」というか、「栴檀は双葉よりかんばし」というか、「バカは死ななきゃ治らない」というか、とにかく、人間の持って生まれた性癖というものは、そう簡単には変わらない。変わらないどころか、歳をとればとるほど、その性癖が増大というか、増長というか、悪化というか、とにかく、ひどくなるばかりだ。

 ぼくの場合、その性癖は、数えれば十指に余るけれども、何よりも分かりやすくまた人さまに迷惑をかけるものとして、「収集癖」がある。何かを集めたって、人さまに迷惑かけることにはならないんじゃないかというのは、「収集癖」のオソロシサを知らないからである。一番分かりやすい迷惑というのは、いわゆる「ゴミ屋敷」なんぞを作ってしまう性癖で、こうなるとほとんど病気であるけれど、それじゃあ、ゴミを集めたら病気で、昆虫を集めるのは病気じゃないのかってことになったら、そう簡単には言えないに決まっている。ゴミの場合は、ほとんどの人が「嫌なもの」「汚いもの」って思っているから、それを集めたら変な目で見られ「あの人、ビョーキじゃないの?」って言われるけど、昆虫だって、かなり多くの人からすれば、ゴミ以上に「嫌なもの」「気味悪いもの」であるに違いない。

 というわけだから、いずれにしても、「ものを際限なく集める」ということは、だいたいにおいて、「人さまに迷惑をかける」行為となってしまう可能性が高いわけだ。昆虫なら、標本箱が100個あったって、一部屋占領すれば済むことだが、これがたとえば本だったりすれば、下手をすれば二階の床が抜ける事態にもなるから、「人さま」つまり、家族に大迷惑をかけることになるのだ。

 ぼくの場合は、一時、この大量の本と大量のCDを集めてしまったことをおおいに反省して、本をおよそ3000冊、極悪非道にも「自炊」してしまい、本棚は一時かなりすっきりして、「余白の美」すら生み出していたのに、ここへきて、なんだか無性に本が欲しくなって、その余白もあっという間に埋まってしまった。しかも今度は、「自炊」する気になかなかなれない。あれほど、「紙の本」なんかもう終わりでいい! ってほざいていたのに、やっぱり本は紙の本だよなあなんて時々思ったりもするのだから始末が悪い。

 CDもいったい何千枚(いや違った、何百枚)あったのか覚えてないが、ほとんどをパソコンに取り込み、CD本体は売ってしまった。これはこれでいいやと思っていたのだが、昨今、昔はほとんど聴かなかったのに、無性にクラシックを聴きたくなって、パソコンから聴こうとするのだが、どうもなかなか見つからない。見つかっても、どうも、なんというかオモムキに欠ける。CDをデッキに入れて、アンプのボタンを押すといった動作が懐かしくなってきてしまう。だからといって、今更レコードプレーヤーやLPレコードを買いこみ「アナログ回帰」する気もないし、時間もない。せめて、CDは手元に置いておきたいよなあなんて思っているうちに、ネットで、グレン・グールドのボックスが発売されることを知った。いや知ってしまった。

 全81枚組で、およそ26000円である。1枚なんと320円である。ぼくは昔からグールドが好きで、何度、そのCDを全部買いたいと思ったか知れない。その当時は、1枚あたりだいたい2500円はしたわけだから、81枚も買ったら20万円は超してしまう。そんなことは到底できなかった。それが……。

 昨今の音楽業界は、ネット配信が中心になったのか、CDなどは投げ売り状態ということなのか。50枚組で8000円なんてもの当たり前にある。これは、ほんとにヤバイ状況である。

 そんなこんなで、我が家に、グールドの、コンプリートコレクションなるものがどっかと届いた。ものすごく大きな箱に入っている。いくらCD81枚といっても、こんなに大きな箱はいらないだろうと思って開けてみると、LP版の大きさの分厚い本が入っていた。それは、81枚のLP版のジャケット写真を中心にした写真集だった。その他にも、今まで目にしたことのないグールドの写真などもたくさん収録されている。感激した。

 しかし、こんなことをしていたら切りがない。今度こそ、ほんとうの「ゴミ屋敷」になってしまう。「資金」もそろそろ底をついてきたことだし、買うことはそこそこにして、聴く、読むことに重心を移していかねばならぬと、自分を強く戒めている(つもりの)昨今である。


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