47 近所のパン屋さん

2015.8.3

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 このクソ暑いなか、夕食を食べたあと、夫婦そろってウオーキングをしていると言うと、たいていの人は、エライ! とかいうけれど、どういう意味でエライのか、とんと分からない。ほとんど蒸し風呂のような空気の中を泳ぐように歩くからエライのか、還暦をとうに過ぎた夫婦がそろって歩くからエライのか、そうやって歩いてきて汗みずくになりながら、シャワーと水だけで満足してビールの一杯も飲まないからエライのか、はたまた、いい季節ならともかくそんなあんまり誰もやる気にならないような季節に熱中症になるかもしれない危険をも顧みずに歩くからエライのか、分からない。

 エラクなんかないと思う。ただ、それが意外と気持ちいいからやっているだけのことなのだが、他人さまから見ると、「自分はとてもやる気になれない」と思う人が多いから、多くの人がエライなんて思うだけのことだろう。ぼくからすると、この暑いさなかに、人のウジャウジャ集まる花火大会なんかに家族で出かけるヒトのほうがよっぽどエライと思う。

 そんなことを言おうとして書き始めたのではない。このウオーキングをしていると、近所の様子が「定点観測」できるという面白みがあるのだ。それを書こうと思ったわけで、以前もそんなこと書いたことがある。

 最近、我が家から歩いて5分ほどのところに、パン屋さんができた。そこは以前は、洋品店だったのだが、やめてしまったその後へ入ったのだ。しかし、洋品店の前は(あるいは前の前?)パン屋さんだったのだ。つまり、そこはなんども店を閉めては、新しい店ができるので、ぼくらの間では(あるいはおそらくこの近所でも)有名なところなのだ。

 だから、洋品店のあとに、また何やら新しい店が出来るらしいということを知って興味津々だった。ウオーキングなどでその前を通りかかっているうちに、だんだんと内装ができはじめ、やがてどうやらパン屋さんらしいぞ、という段になり、店の前におしゃれなウッドデッキなどが出来上がり始めるころにもなれば、そのお店をやるらしい若い夫婦が子どもを連れて、ウッドデッキを作っている職人さんなんかと楽しそうに話なんかしているところを目撃したりすると、ぼくら夫婦は、思わず顔を見合わせて、複雑な目配せをしてしまう。それだけではすまなくて、「ああ、この店も、すぐに潰れちゃうんじゃないかなあ。楽しいのは今だけかもね。」という会話が交わされる時もあるわけである。

 そんなパン屋さんが、つい先頃、とうとうオープンした。朝8時から夕方6時までの営業で、月曜日が定休日らしい。新聞に折り込みチラシが入ってくるわけでもないのに、結構若い人が来ている。せっかくだから買ってみようというので、家内が、食パンとおかずパンを買ってきた。これがおいしい。

 我が家は、朝は食パン、昼もたいてはパンだから、近くの京急デパートの中のアンデルセンか、サンジェルマンかでパンを買う。時には、コンビニのサンドイッチということもあるが、それにしても、これを何年も続けているので、いささか飽きてきている。

 それなら、この新しいパン屋さんで買おう。最近は朝食も8時ごろだから、ちょっと行ってくれば朝から焼きたてのパンも食べられるってものだし、それに第一、そのお店の応援にもなるし、なんて考えて、昨日、つまり日曜日、イトーヨーカドーへの買い物の帰りに昼食用のパンを買いに立ち寄った。いつもなら、ヨーカドーのパン屋で昼食用のパンを買うのに、わざわざその店に寄ったのである。

 ところが、なんと、お店は休みだった。定休日は月曜日とどこかに書いてあったはずなのに、お店の入り口には「本日はすみませんが、臨時にお休みします」とか「今日は、暑いので休みます」とか、そういった張り紙すらない。何にもインフォメーションがなくて、ただ、ドアが開かず、中には誰もいないのである。

 ヨーカドーでパンを買わずに来たのに、今日のお昼、どうしてくれる? って腹がたった。臨時休業ならどこか目立つところに何か書いておいてよ。そうしないとお客さんが離れちゃうよ。それでなくても、ここは、代々廃業続きの店ばかりで、また潰れるんじゃないかとハラハラしているんだ。工事を見に来たあなたたちにに、「やめたほうがいいですよ。ここはヨーカドーのすぐ近くだけど、案外人が通らなくて、はやらない場所なんだ。悪いことはいわない。やめておきなさい。」と何度言いたくなったことか。それでも、あなたたちの、希望にみちた顔をみると、「まれ」でも見ているような気分になって、なんとかうまくいくといいなあと思ったりして、こうやって、今日はここのパンをお昼に食べようと思って、まるで灼熱地獄のような空気をかきわけ、車を近くにおいてやってきたんじゃないの。それなのに……、なんて心の中でブツブツ、ブツブツ。

 結局、昨日は、パンがなかったので、冷凍のパスタをチンして食べた。これはこれでウマイのでいいのだが、それでも、この新しいパン屋さんのパンを食べたかったなあと思いつつ、お店の行く末をしばし案じたのだった。

*後日分かったことだが、このパン屋さんの定休日は、日曜日と月曜日だったのだ。どうも、見おとしたらしい。結局悪いのは、ぼくの方だったわけだ。パン屋さんごめんなさい。


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