2 10g男と10G男

2014.10.5


 今までめったになかったことなのだが、栄光学園の卒業生のグループに誘われて、一緒に飲む機会に恵まれた。その学年は、ぼくが栄光に教師として戻って最初に教えた学年で、その時彼らは中2だった。その中2だった彼らが、当たり前のことだが、すっかり大人になっていて、歳を聞けば(聞かなくても計算すれば分かるわけだが)44歳・45歳という、まさに働き盛り。横浜の居酒屋で20人ほどで、大盛り上がりだった。

 どうやらぼくの体調を気遣ってくれて、開始が2時ごろで5時半終了という飲み会らしからぬ時間設定だったのに、2次会まで参加してしまったので、結局その有り難い気遣いも無駄になり、6時間近くも飲み続ける、というよりしゃべり続けるという結果となった。さすがに、翌日はぐったり疲れていたけれど、「病後」を感じさせるほどではなかった。

 で、その彼らとの話の中で、当然のように、「先生、昔、授業であんなこといってましたよね。」「こんなことも、言ってましたよね。」という話題になった。

 ひとりが「先生、黒板に『美人局』って書いて、これ何て読むかって聞きましたよね。」というから、びっくりしてしまって、「そんなこと言うわけないだろ。」って言うと、別のやつが「オレも、それだけは、はっきり覚えてる!」って証言する。最初に言ったやつが、援軍を得たものだから更に勢いづいて「で、オレがさ、『つつもたせ』って答えたら、オレの方をチラッと見て、『よく知っているな』とか言っちゃって、それから、『つつもたせ』というのはどういうものかを説明してさ、『オマエたちも大人になったら気をつけろよ。』とか言ってましたよ。」と言う。

 仮にそれが本当だとして(いや、絶対本当なのだろうが)、彼らを教えたのは、中2の後、高2・高3で、いくらなんでも中2にそんなこと言うわけないから、たぶん高2か、高3の時だろう。でも、いったい、何を教えていて、「美人局」の読みのことが出てくるのだろうか。「難読語」を教えていたのだろうか。それにしても、高校生が「美人局」を読める必要はないわけだし、まさかぼくが「美人局」の犠牲になった経験があるわけではないから、そんなことを教える「必然性」はまったくない。ほんとに、何と言ったらいいのか、しょうもない教師だったわけである。

 生徒というものは、教師が本当に教えたいと思っていることは全然覚えていなくて、どうでもいいような雑談の方をよく覚えているものだということは、ぼく自身の生徒としての経験からいっても永遠の真実ではあるが、それにしても、変なことを覚えているものである。まったく赤面ものだ。ただ、いまさら弁解めくが、男子校のうぶな(と勝手にぼくが決めつけて)生徒が卒業したあと、変な道に迷いこまないようにというアタタカイ「教師ごころ」が働いた結果なのかもしれない。(やっぱり、ありえないか……)

 その後の話の流れの中で、今まで興味はあったが、手を出すのをためらっていたフェイスブックを始めることになってしまったのだが、その経緯は、長くなるので書かない。

 フェイスブックを始めた翌日ぐらいに、卒業生から不思議なメッセージが届いた。退職したことは存じませんでした、なんて書いた後に「『栄光学園物語』を読んで、あの先生、10g男って呼ばれてたんだ。などと思いながら中1の頃読んでいたのを懐かしく思い出します。」というような内容だった。「10g男」っていったい何だろう、「栄光学園物語」にそんな単語は絶対に出てこない。で、彼に、「10g男って何?」ってメッセージを送ったら、「たしか化学のlogが分らなくて、『10gってなんですか??』って質問されたとか、面白かったので、覚えてました。」という返事が来た。

 「栄光学園物語」の第2章は、ぼくの栄光生時代の思い出を書いた自伝的部分で、生物学を研究したかったが、数学や化学や物理がまるで分からなかったので文系にした、というようなことは確かに書いたので、その関連で、中1の授業でそんな話しをしたらしい。しかし、そう言われても、今ではまったく覚えていない。「log」を「10g」と読むようじゃあ、確かに理系は無理な話だが、そこまでバカだとは思わなかった。やれやれである。

 で、さっきの「10g男ってなんだっけ?」という質問の後に「今なら10ギガ男だね。」って書いたら、「10ギガ男、流行るかもしれませんね(笑)」って返事があった。小文字と大文字の差にすぎないのに、「10g男」と「10G男」じゃ、ひどくイメージが違う。ひとりで笑った。

 


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