11 イタリア万歳

2000.3


 

 数年前、新聞にとんでもない朗報が掲載されたことがある。何でも、イタリアの女性にハゲに関するアンケートをとったところ、イタリア女性の70パーセント近くが、「ハゲている方が好きだ」と答えたというのだ。「ハゲていてもいい」ではなく、いいですか、「ハゲている方が」好きだって答えたそうなのである。この記事を読んだとき、世の中が一瞬バラ色に見えた。それは、はるか昔、なぜ結婚すると子供ができるのかを正確に知ったとき、ほとんど幸福感で視界がピンクに染まったとき以来といっていい。

 なるほどそう言われてみると、イタリア映画の恋愛映画に出てくるモテル男は、我々から見ると風采のあがらないハゲた男であることが多いような気がする。あれはいい俳優がいないので仕方なく使っているのではなく、わざわざハゲたヤツを連れてきていたのだったというわけか。

 なぜハゲてる男の方がいいのか。男性ホルモンが旺盛だから、あっちに強いということなのか。それともハゲてる方が美しく見えるということなのか。海の向こうのことはよくわからない。

 ひるがえって、我が国では、ハゲはいかなる運命にあるか。これはもうコンプレックス産業の格好の餌食となっている。コンプレックス産業とは読んで字のごとく、人のコンプレックスに付け入る産業である。養毛剤を作る製薬会社やカツラ業者がそれにあたる。カツラのCMなどはほんとうにひどいものだ。まるでハゲているヤツは、人前にも堂々と出られない存在だみたいなイメージを我々の脳細胞の一つ一つに植え付けている。これだけ差別がやかましく言われている時代なのに、ハゲ差別だけは野放しなのは、この業界の陰謀としか思えない。そして、悲しいことに、日本のハゲ男性はこの陰謀にヤスヤスと乗せられてしまうのである。かく言うぼくも、その例外では決してない。日々、薄くなる頭をかかえて、モンモンとしているのである。

 そこへ行くとどうだ。イタリア人の感性のすばらしさ。ハゲだろうが、デブだろうが、何でも来いのおおらかさ。日本の女性はどうしてこの素晴らしい感性を我が物にできないのだろうか。「ハゲって素敵」と何故言わないのか。

 そう言えば、あの記事も一度載っただけで、何の話題にもならなかった。やはりこれも陰謀であろう。いずれにしても、ナポリタンであるぼく(「ナポリタン」参照)としては、晩年はイタリアで過ごすのが最善のようである。




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