12 月光仮面はいつ戻る

2000.3


 

 小学校4年の頃だったろうか。池端君という友だちと家の前の道路にロウセキで絵を描いて遊んでいると、池端君が何やら見たこともない人物を描いた。マントをつけて覆面をしている。「何、それ?」と聞くと、「月光仮面だよ。」と誇らしげに答える。その隣に今度はドクロの面をつけた人物を描いて「こっちがドクロ仮面さ」と言った。

 「ふーん、どっちがイイ者なの?」(ぼくらはイイ者、ワル者という言い方をした)「そりゃあ、月光仮面だよ。」なるほど、ドクロ仮面なんていかにもワル者の名前だ。とにかくそれが『月光仮面』との出会いだった。

 ぼくの家にはまだテレビがなかったので、家のはす向かいにある親戚のラーメン屋に行って見た。親戚とはいえ、ただで見せてもらうわけではない。ちゃんとラーメンを頼んで、食べながら見たのである。毎回、毎回、それこそ血沸き肉踊るという感じで、懸命に見た。そして何よりも、一日も早く家にテレビが来ることを願っていた。

 それなのに、テレビが家に来る前に、なんとその『月光仮面』は最終回を迎えてしまった。その最終回のことをぼくは今でも鮮明に覚えている。

 主演の大瀬康一(という字だったろうか)が、番組の終わりにテレビから語りかけてきた。「全国のよい子の皆さん、月光仮面は今日で終わりです。でも、いつかまた必ず戻ってきます。その日を楽しみにしていてください。」というようなことを言ったのだ。その言葉をぼくは信じた。それからというもの、いつになったら、『月光仮面』が再開するのかとそればかり考えて過ごした。

 5年生のとき、家にとうとうテレビが来た。『月光仮面』の時間帯には、確か『夕焼け天使』というような、女の子向けのような番組が入っていた。これが終わったら『月光仮面』だな、そう思っていたが、まるでその気配すらない。そのうち、『アラーの使者』というのが始まった。主演は確か千葉真一で、『月光仮面』の二番煎じのようなものである。ようやくそのころになって、大瀬康一がウソをついたんだ、と考えるようになった。あんな慰めの言葉を信じてずっと待っていたなんて、なんてバカなんだ、そう思うと悔しかった。

 しかし、おそらく「全国のよい子の皆さん」も、ぼくと同じような思いで待っていたのではなかろうか。ぼくは今でも、ちょっぴり裏切られた思いでいるのである。




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