13 AMな人

2000.3


 

 車で通勤を始めてから15年近くたつが、車の中では大抵ラジオを聞いてきた。朝は『高嶋ひでたけのおはよう中年探偵団』(途中でこういうふうに名前が変わったが、その前は何だったか)帰りは『鶴光の噂のゴールデンアワー』、いずれもニッポン放送である。ニッポン放送が好きというより、一番電波の入りがいいので、つい聞いてきたということにすぎないが、10年以上も続けて聞いていると、さすがに愛着がわいてくる。

 何よりも、耳がAM向きになってしまった。車で聞くようになるまでは、もっぱらラジオを聞くと言えばFMだった。自宅のオーディオで聞くわけだから、音のいいFM以外は聞く気にはなれなかったし、更に逆のぼれば、高校時代に誰もが通る深夜放送というものを、一度も聞いたことがないということも、AMに親しみのなかった原因かもしれない。しかし耳がAM用になってしまった今では、FMがときどき耳障りに感じることが多くなった。音楽そのものは今でもFMの高音質の方がいいし、かかる曲も好きなものも多いから、ときどき聞くのだが、問題は、DJであり、視聴者の投稿だ。

 日本語と英語をまぜこぜにしゃべる男。どうも外人らしいのだが、彼らのギャグがどうしても笑えない。自分で受けているようなのだが、どこが面白いのかすらわからない。これを笑いながら聞いているヤツが日本にいるのだろうかといつも不思議になる。

 そうかと思えば、「40歳の男性の方からです。ザ・プラターズのオンリーユーをリクエストします。この曲は、私がキャデラックのコンバーチブルで六本木あたりを流していたころ、よく聞きました。ポニーテールの可愛かったスレンダーな彼女を妻にした今も、妻に恋しています。」なんてリクエストメールを女のDJが「すてきなご主人ですねえ」なんてコメント付きで平気で流したりする。

 ウソつけって思わず呟きながら、世の中ウソのようなことを平気でしている人種も多いことだから、ひょっとして本当なのかもしれないなあなどと思い返す。しかしこんな背筋の寒くなるようなキザなヤロウの嘘だか、ノロケだか知らないものに付き合わされるより、10年たっても相も変わらず、「オクシャン、イイノンカ、アヘアヘ。」なんて事ばっかり言ってる鶴光のシモネタギャグを聞いている方がよほど心身の健康にはいいなんて思ってしまうぼくは、どうやら心身ともに「AMな人」になってしまったらしい。




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