87 デスティネーションって何だ? 

2012.8.22


 日本語ですむところをわざわざカタカナ語にすることへの非難は、もう何十年も前から繰り返されてきたが、ぼくはまあいいじゃないの、っていう方だった。カタカナ語でないと無理という言葉もあって、たとえば「エコロジー」なんていうのは、「生態学」だの「環境生態」だのといってもよけいわからないし漢字も画数が多くて書くのも大変。それを「エコ」って言ってしまえば、簡単だし、意味もすぐにわかる。(ような気になる。)

 それに戦時中のように、ハンドルを「自動車操舵用中抜け円盤」(といったかどうか知らないが)なんていっていたひには日が暮れてしまう。

 しかし近ごろは、どうしてわざわざ? って思うことが多くなった。テレビのCMで、確かJRが、「デスティネーション・キャンペーン」とやたらに言うので、「デスティネーション」っていったい何だ? と気になってしかたがなかった。何とかネーションっていうんだから、何か国家戦略と関係あるのか? いやいやカーネーションって花もあるから、別に国家とは関係ないか。じゃあ、何なんだ。CMの内容は、どうも電車に乗って出かけようってなことでしかない。

 それで、英和辞典で調べてみた。すると何のことはない、スペリングは、Destination、意味は「目的地・行き先」とある。キャンペーンは「大衆に対する、一定の目的をもった各種の組織的な運動や働きかけ。」(大辞林)ということだから、つなげると「行き先(へ誘導する)大衆に対する、一定の目的をもった各種の組織的な運動や働きかけ。」と訳せる。ようするに、「北海道への誘致活動」ということで、俗にいえば「いらっしゃい! 北海道へ!」ということだ。

 デスティネーションという日本人にはいかにも大げさに感じられるカタカナ語を使って、何かすごいことをしているみたいな印象を与えるのが目的なのかもしれないが、しかし、デスティネーションが「行く先」って意味というのは、ほんとに拍子抜けする。大衆をバカにする気かと、腹立たしい。まあ、JRでいえば、「ディスカバー・ジャパン」ぐらいまでが許せる限度かなあ。

 そういえば、ぼくの愛車リーフの横っ腹に、「zero emission」ってカッコいいロゴが入っているが、それは日産の「ゼロエミッションプログラム」のことだとは知っていたものの、買ってからしばらくは、「emission」というのは、何か崇高な使命のことかと思っていた。「mission」にただ「e」がついただけなんだから、「mission=使命」とそう遠くない意味なんだろうと何となく思っていたのだ。けれども、その前に「zero」がついているのがどうもおかしい。「使命なし」ということになるじゃないか。どういうことだろうとしばらく思っていたが、ある日「emission」を英和辞典で調べてみたら、なんと「排気ガス」という意味だった。これもガックリきた。「zero emission」っていうのは、「排気ガス出しません」ということだったわけだ。まあしかし、車に日本語で「排気ガス出しません」なんて書いてあったらカッコ悪いし、それより「zero emission」のほうが見栄えがすることも確かだ。

 それにしても、どうして「mission=使命」に「e」をつけただけで、「排気ガス」になってしまうのか。いまだにきちんと調べてないから知らないが、どうも英語はわけがわからない。

 しかし、「zero emission」は、環境を守る「使命」を果たしているだろうから、まあ、そう遠くないのかもしれない。


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