77 扇風機 

2012.6.25


 古い扇風機が突然発火する映像をこのごろテレビでよく目にするものだから、そういえばこの扇風機も結構古いんじゃないかなあと思っていたが、テレビに映るボロボロの扇風機に比べれば型も新しいから大丈夫だろう、でもひょっとして10年ぐらいは経っているかもしれないなどと思いつつ、老眼で細かい字が読めないものだから、といっても老眼鏡をかければばっちり読めるのに、そのメガネをかけるという一手間が面倒なもので、なかなか確かめる気にもならなかった。でも、やっぱり気になるので、ここはいちばんちゃんと確かめようと老眼鏡をかけて、その扇風機の文字がゴチャゴチャ書いてあるところをみると、なんだ、かなりくっきりと製造年が書いてある。

 1990年だってさ、やっぱり10年もたってるよ、と言うと、家内が、何言ってるのよ、22年じゃないの、と言う。え、そうなの? と言いつつ、そうか今年は2012年か、そうすると1990年は22年前かと驚愕した。そんな計算を即座にやってのける家内もたいしたものである。

 最近の扇風機には耐用年数の表示があるそうで、たいていは7年とか10年とかいったところらしい。最新式のものでさえそうなのだから、22年も前のものならとっくに耐用年数は過ぎているはずだ。ただそれほど頻繁に使ってきたわけではないので、まだ十分の使えるのだが、用心に越したことはないから捨てることにした。

 それにしても、どうもぼくにはキューブリックの映画『2001年宇宙の旅』のイメージが頭のどこかにこびりついていて、21世紀というのは、あくまで未来に属する、SFの世界なのだ。それどころか、梨の「20世紀」という名前にすら、「どこか新しい」という印象を持ってしまう。それなのに、今が、2012年だなんてどうにも納得がいかない。納得いかないまま、21世紀を生きてきてしまっているのである。心のどこかで、ウソだあ、21世紀なんて、と思っているフシがある。

 平成だって、今年は24年である。24年といえば、ぼくは昭和24年の生まれである。これを思うと、なぜか物狂おしい。自分がなんとなく歴史上の人物になったような気がするのだ。

 昭和24年生まれのぼくにとっては、昭和20年の終戦だって、ずっと昔の出来事のように思ってきた。まして、昭和元年なんて、「戦時中」ですらないじゃないか。それなのに、今は平成24年。平成元年なんてつい昨日のこととしか思えない。

 この扇風機が製造された1990年は平成2年。やっぱり捨てるしかない。


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