71 いるわけない女の子 

2012.5.19


 どんなにつらいことがあっても、いつも前向きで、決してくじけず頑張っている女の子、というのが、NHKの朝ドラの主人公だ。そんな子は現実にはいるわけないから、どうも朝ドラって苦手だという人がいる。何を隠そう、数年前までのぼくもそうだった。出てくる人間が、結局みんないい人なんて、ドラマとして底が浅すぎるなんて思っていた。

 それが、2007年の「どんど晴れ」を教え子が出ているということから見始めて以来、「チリトテチン」は別として、「瞳」「だんだん」「つばさ」「ウェルかめ」「ゲゲゲの女房」「てっぱん」「おひさま」「カーネーション」そして今の「梅ちゃん先生」まで、1回も欠かさず全部見ている。「瞳」から「ウェルかめ」までは、どうもイマイチだったが、最後までつき合った。そして「ゲゲゲの女房」からは、まるで今までの朝ドラは何だったのっていうくらい面白くて、それは「梅ちゃん先生」まで続いている。

 堀北真希は、前から知っていたが、たいした魅力を感じなかった。同僚の若い教師でファンがいたから、何でこんな子がいいのかってからかっていたくらいである。それが、この「梅ちゃん先生」を見て、一変。すっかりファンになった。脚本は、「おひさま」や「カーネーション」には及ばないし、堀北真希の演技力は、「カーネーション」の尾野真千子にはかなわないが、とにかく梅ちゃんはカワイイ。こんな子が娘だったらいいなあなんて思ったりして、テレビにかじりついている。

 実際に、こんな素直で、ちょっと間抜けで、可愛くて、なんて娘がいるわけないけれど、いるわけない女の子だからこそ、ドラマで見る価値があるのではないかと思うようになったのだ。

 朝ドラではないが、夜のサスペンスモノでも、最近は1時間の連続モノが多くなり、中でも若い女優を主人公にしたものが目立つようになった。「都市伝説の女」の長澤まさみ、「アンサー」の観月ありさ、「リーガル・ハイ」の新垣結衣など、みんないい。これらのドラマも欠かさず見ているが、新鮮だ。これまでのものだと、「科捜研の女」の沢口靖子、「京都地検の女」の名取裕子なんかが定番だが、やはりさすがに見飽きてきた。いくら美人でも「オバサン感」がいなめない。どうせみるなら、こんな美人の刑事なんてあり得ないでしょって思うにしても、若くて美人の方がいい。

 しかし、いくら若くてきれいな女優が出ていても、恋愛のドロドロなドラマは見る気がしない。ああでもないこうでもないという人間関係のゴタゴタが面倒なのだ。しかも、あんまり人間の嫌な面は見たくない。嫌な人間は、世間にゴマンといて、場合によってはそいつらとも何とかつき合っていかねばならないのがぼくらの人生だとすれば、何もテレビでまで、そんな人間を見たくないということだ。

 夏目漱石も「草枕」で同じことをいっている。しかし、漱石がもし今の時代に生きていたら、朝ドラを見るだろうか。室生犀星は、ただひたすら美人女優を見るために映画館に通っていたらしいのだが。


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