54 酒の楽しみ

2012.2.11


 ダイエットを始めたころ、それまで寝る前に酒を飲んでいたのをピタリとやめた。寝付きはきわめていいほうなので、酒など飲まなくてもよかったのだが、なんとなく習慣になっていたのだ。

 寝る前に飲まないとなると、夕食時のいわゆる晩酌ということになるのだろうが、これをやると、その後に仕事ができなくなるので、飲むわけにはいかなかった。その頃は(といってもたかだか数年前のことだが)、夕食後にまだ仕事(といってもせいぜい明日の授業の予習程度のものだったが)をしていたのである。そういうわけで、しばらく家で日常的に酒を飲むことはしなかった。

 それが、あの震災以来、どうも「酒でも飲まなきゃやってられない。」みたいな心境になったうえに、夕食後に仕事をすることを自らに禁じたので、夕食時に多少酒を飲むようになった。といっても、優雅な晩酌とはほど遠く、飲んでも日本酒なら1合弱程度。ビールなら350ミリ缶1本。焼酎ならオンザロックでコップに1杯という、まことにおとなしい晩酌のまねごとに過ぎない。しかも、酒で太ってしまっては問題外なので、夕食から米の飯が消えた。最近では、カレーライスとか、鰻丼とかのメニュー以外では夕食では一切米を食べなくなった。案外これでも平気なものである。

 酒の方は、しばらく芋焼酎に凝っていた時期があったが、最近では、もっぱら日本酒である。それも、純米酒とか純米吟醸酒とかいったいい酒を冷で飲む。何しろ量を飲まないのだから、多少高くてもいいのである。720ミリリットルのビンでも、だいたい1週間は持つのだから、経済的なことこの上ない。それでも結構いい気分になる。寒い夜などは、飲んだ後、コタツに入っていると、足のあたりがじんわりしびれるような感じがとても快いものである。

 近くの京急デパートの地下の酒売り場が、各地のお酒を割合豊富に取りそろえているので、「今度は何を飲もうかなあ。」なんて思いながら選ぶのも楽しい。この酒売り場では、いろいろな蔵元がやってきて特別販売もしている。こういうのも、蔵元の人と話せるのでいい感じだ。

 何ヶ月か前、催事場で「大新潟展」をやっていたから行ってみたら、新潟の「麒麟山」の蔵元が来ていた。この酒は、これも京急デパートの10階にある天ぷら屋に置いてあって、かつてはよく飲んだので、思わず買った。これ、京急に置いてないよねえ、置いてくれるといいんだけどなあ、といったら、蔵元の人は、すみません、でも努力します、なんて言ってくれた。それからしばらくして、地下の酒売り場に「麒麟山」が置かれるようになった。ぼくの言ったことが利いたのだろうか。これはもう、買わねば義理が立たない。

 ぼくは、本格的な酒飲みではないから、ほんとうは、日本酒の味がよくわからない。どういうのが辛口で、どういうのが甘口なのかもさっぱり分からない。だからこの酒はどうこうとウンチクを垂れることはまったくできないのだが、いろいろな酒を飲んでは、旨いと思ったり、これはイマイチと思ったりしているだけのことだが、できれば、「これに限る」という酒を見つけたいものだと思っている。

 ただ、そういう酒が見つかっても、それ以外は飲まないということにはならないだろうと思う。いろいろな味が分かるようになれば、そのいろいろな味を楽しみたい。これは酒に限らず、ぼくの基本的な姿勢のようである。


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