52 自慢ばかりじゃしょうがない

2012.1.31


 電気自動車のことを書こうと思っていたら、自動車そのもののことはそっちのけで、助成金のことやら、「買った自慢」に終始してしまった。これでは、まるで助成金に目がくらんで、自慢するためだけに買ったと思われかねない。もちろんそんなことはない。助成金につられて買ったことは事実である。いまどき、130万円も国や自治体からもらえるなんてことは、まずないではないか。おまけに、消費税率アップが声高に論じられるどころか、どうやら不可避らしい現状で、税金はいりませんなんていう話も珍しい。

 などということを書いていると、またぞろ自動車そのものについて書かずに終わってしまいそうだから、助成金や税金のことはここまでにして、車そのものについて書く。

 まず、とにかく、この車は、自動車ではなく、電車である。ガソリンエンジンがなく、モーターで動くのだから、電車というほうが正しい。それが紛らわしければ、レールのない電車といえばいいだろう。

 乗り込んで、ブレーキペダルを踏みながら、電源のスイッチを押す。すると、ポロンという電子音がして、目の前のメーター類に文字やら図やらがあらわれる。朝一番の運転だと、「おはようござます。1月30日、月曜日です。今日も安全運転でいきましょう。」という女性の声が流れる。それ以外は一切音がしない。エンジンがないのだから、もちろんエンジン音がしない。モーターの音も聞こえない。これで、パーキングブレーキをはずして、ドライブモードにして、アクセルペダルを踏むと走り出す。この時、小さなモーター音がするが、まあ無音に近い。自動車でいうと、ニュートラルにして坂道を滑り降りているような感じといったらいいだろうか。何となく、手応えがないというか、頼りない感じがする。

 しかし、道路に出て、アクセルペダルをちょっと踏み込むと、驚く。ものすごい加速である。アクセルを踏んだぶんだけ加速する。レスポンスが素晴らしいのである。まるでスカイラインGTRみたいだと言った人がいるそうだ。ぼくはそんな車に乗ったことがないので分からないが、こういう感覚は初めてだ。電気自動車というと、なんかヤワな感じがするが、実はまったく逆で、ものすごいパワーなのだ。しかも、自動車のようにけたたましいブロロロ〜ンというエンジン音がなく、黙って走るだけスゴミがある。眠狂四郎の円月殺法みたいなものだ。

 室内は極めて静かで、もちろんタイヤ音はするが、舗装のいい道路だと滑るよう静かに走る。モーターのヒーンというようなか細い音がするだけだ。ハンドルも極めて軽いので、何だか運転している気がしない。電車に似ているという所以である。

 人によく聞かれるのは、1回の充電でどのくらい走れるのかということだ。パワーがあるとか、静かだとかいうことよりも、実はこれが一番大きな問題なのがよくわかる。カタログでは、200キロとあるが、これは、エアコンも使わず、理想的なアクセルワークで走った場合のことで、たとえば今のような真冬にエアコンをガンガンいれて、しかも加速がいいなんていって調子に乗って飛ばして走ったら、おそらく100キロぐらいしか走れない。これが最大の難点だろう。万一「電欠」になったら、急速充電設備(30分で80パーセント充電できる。)がまだ不十分だからどうしようもない。最悪、日産とかJAFに電話して助けにきてもらうしかないだろう。高速道路なら、サービスエリアに急速充電器があるからまあ大丈夫なのだが、一般道ではキツイ。

 要するに、遠出には向かないということだ。この車で安心して遠出ができるようになるには、まだ十年以上かかるような気がする。電気自動車は、実験的な段階からようやく一歩実用的な段階に踏み出したに過ぎないといえる。「だから買うのは控える。」のか、「だからこそ買う。」のかは趣味の問題、あるいは人生観の問題であろう。

 充電のことに話を戻せば、普段は家で充電する。200ボルト電源で、フル充電に8時間かかる。これは、タイマーがついているので、寝ている間にできる。だから最近のコマーシャルのように、「朝起きたらいつも満タン」ということになるのだ。ただし、この充電設備には設置に10万円ぐらいかかるのと、戸建て住宅でないと設置が難しいという問題がある。これも難点のひとつである。

 電気代はどうなのか。フル充電にかかる電気代は普通の契約で計算すると(つまり夜間割引の契約ではない普通の契約ということ)約600円。これでだいたい150キロ走れる。今まで乗っていた日産ティアナの燃費がリッター7キロ程度だったから、1リットル135円として、150キロ走るには約2900円かかる。つまり、単純に「燃料代」は、ガソリン車の五分の一程度ということになる。もちろんこれがリッター15キロ走るガソリン車との比較なら、二分の一程度となる。

 一番肝心なことが最後になった。つまりこれがはたして日産がいうように「究極のエコカー」かどうかということだ。ガソリンを一滴も使わない。排気ガスも一切ない。騒音もない。そういう意味では「究極のエコカー」である。しかし、電気は使うのだ。そこが胸を張れない理由だ。屋根にソーラーパネルを貼って、風車を回して走れるなら、真の「究極のエコカー」となるだろうか。しかし、「ソーラーパネル」を作るには膨大な電力がいるなんて話を聞いたこともあるし、まあ、その辺は難しい。「究極のエコ」というのなら、車なんかに乗らないことである。


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