51 電気自動車自慢

2012.1.28


 日産の電気自動車リーフが我が家に来て3週間ほど経った。

 去年の11月、家内の父の納骨も無事終えて、ようやく落ち着いたころ、たまたま車の点検の後、届けてくれたディーラーのA君と車のことを話しているうち、話題がリーフに及んだ。「どう? 売れている?」なんてことから始まったのだが、その時、この車に対して出る助成金の額を聞いて、びっくりした。なんと国、県、市からの助成金をあわせると130万円だという。しかも、この助成金の額は、来年の3月までで、その後の年度はどうなるか分からない、下がることはあっても上がることはないんじゃないかということだった。いろいろ話を聞いていると、購入に際しての自動車重量税も、取得税もタダ。購入後4年間だか5年間だかの自動車税もタダ。しかも、今年中に契約してくれれば家庭用の充電設備設置費用のうち15万円は日産の方で負担します、というようなことだった。

 リーフが登場してから、このガソリンをまったく使わずに、家で充電でき、しかもデザイン的にも満足のいくこの車に、興味をもってはいたのだが、何しろ車体本体価格が400万円近いということで、到底買うのは無理だと思っていたわけだが、こんなに助成金が出るとはちっとも知らなかったし、税金面の優遇もこんなに大きいということも知らなかった。

 A君が、帰った後には、もうぼくはすっかりその気になっていて、家内に話すと、ぼくがそういう状態になったらもうオシマイだと長年の経験から観念したらしく、あっさり同意が得られたので、拍子抜けしたくらいである。

 話はとんとん拍子に進み、数日後には契約した。それから1ヶ月半ごろの今年の正月6日に納車となった次第である。

 何しろ、まだ世界でも2万台(そのうち日本では1万台)しか走っていない車である。駐車場などにとめようものなら、黒山の人だかりができるのではと半分恐れ、半分期待していたのだが、車体の色が黒ということもあってか、ちっとも気づいてくれない。道行く人が振り返ることもない。せっかく時代の先端をゆく車を買ったのだから、自慢しなけりゃ意味がないとばかり、学校へも乗って行って、駐車場に止めてみても、誰も気づかない。かといって、まさか、職員朝礼なんかで前に出て、「えー、みなさん、私この度、電気自動車を買いました。エヘン。」なんて演説することもできない。

 内心、つまらないなあと思っていたら、先日、若い教員がすり寄ってきて、「ヤマモト先生、リーフ、あれ、先生のですか?」と聞いてきたので、「そうだけど。どうして分かったの?」って聞いたら、「ぼく、駐車場で先生たちの車見るの好きなんです。で、今日見ていたら、黒いリーフがあるので、びっくりして、あれ誰の? っていろいろな先生に聞いてまわったら、ある先生が、オレはもう車なんてやめたなんて言ってたくせに、何だか電気自動車買うんだなんてヤマモトさんが言ってたから、きっと彼なんじゃないの、って言うので。」とのこと。そういえば、去年まだ納車されていないころ、数人の教師に自慢したっけ。内心、よしよしと思いながら、いろいろリーフのことについて説明した。彼は、実に興味深そうに聞いてくれたので満足だった。

 つい数日前も、イトーヨーカ堂の駐車場にとめて降りたときに、となりにとまった車から降りてきたお母さんが、子どもに、あれ電気自動車だ、と言うと、子どもも、ぼく知ってるよリーフでしょ、なんて話しているのが耳に入った。そうなんだよ、乗ってみるかい? ってその子に言いたいところだったが、大人げないないのでやめておいた。

 昨日も、ある仕事上の会議の休み時間に、リーフを買ったと自慢したら、ぼくより10歳ほど年上の大学の先生が、「まったく、あんたは新しもん好きだねえ。」と呆れたように言った。「そうですよ。新しいものって、わくわくするでしょ。」と言うと「でもねえ。そういうものって、『次』を買うのがいいんだよ。」というから、「そういうのがダメなんですよ。まずハシリに飛びつく。iPadだって、iPad2の方がいいに決まっていても、1年待つなんてことはしない。最初のものこそ、面白いんですよ。まあ、わからないでしょうけどねえ。」なんて言ったら、苦笑いしていた。

 「おもしろき こともなき世を おもしろく」というのは高杉晋作の辞世の句らしいが、まさに新しいものこそは、「面白くない世を面白く」してくれる。もっとも、ここで終わってしまった句の後に、「すみなすものは心なりけり」なんて言葉を付け加えた人がいるらしいが、余計なことをしたものである。「心がけ次第でいくらでも面白くなる」では、何となく道徳的で、広がりがない。いつの時代でも、もっともらしいことを言ってしめくくらないと気の済まない人がいるものである。ぼくとてもその一人であることはまぬがれていないと自覚はしているが、とにかく、今は、新しいものが面白いとだけ言ってみたい心境なのである。


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