42 冷製コンソメ風コーンスープ

2011.12.4


 高知へ義父の納骨に行った際、高知の新阪急ホテルに2泊した。

 2泊目の朝、ホテルで朝食をとった。よくある和洋食のバイキング方式だったが、連日、カツオのタタキだの、ウツボのタタキだので舌鼓を打っていたので、洋食がいいなと思って、パンやサラダやソーセージなんかを皿にとっていた。コーンスープもあったので、これもいいなと思い、スープ皿にとって、テーブルに戻った。

 新阪急ホテルは、なかなか高級感のあるホテルで、朝食のメニューも豊富で、みなおいしそうだ。パンもうまいし、ソーセージもいける。さて、コーンスープを飲むかと、スプーンですくおうとすると、やけに皿が冷たい。おや冷めているのかと思ったけれど、そんなはずはない、これはきっと冷製スープなんだ。最近ではあまり行かないが、ハングリータイガーなんかでは、冷製のカボチャのポタージュなんてのがよくでてくるし、と思って、スープを見ると、何だか色が薄い。コーンスープ独特の黄色味を帯びた象牙色という感じではなくて、底が見えるほど透明感というわけではないが、半透明に近いような変な色だ。しかも、スープの表面には、ところどころにコーンのようなものが浮いている。スプーンですくってみると、やっぱりトロミが全然ない。そうか、これは、コンソメ風なんだ。南国土佐だから、コーンスープも、とろりとしたポタージュではなくて、冷製のコンソメ風にしているんだと納得して、口に入れて、驚いた。

 味がない。かすかにコーンスープのような匂いはするが、味まではいかない。ちっともおいしくない。むしろまずいといったほうがあたっている。

 その昔、青山高校に勤務していたころ、職員のパーティが赤坂にある有名な中華料理店で行われたことがあって、そのとき、エビチリがでたのだが、それを一口食べたとき、あまりの味のなさに驚いたことがあったのを思い出した。最初、ぼくの味覚が変なのかと思っていたら、みんなが騒ぎ出し、ボーイを呼んでこれはどういうことかと聞いたら、しばらくして慌てて全部の皿を回収していき、しばらくして新しいのが来た。何でも、塩を入れ忘れたとかいうようなことだった。

 東京は赤坂の有名な中華料理店でさえ、こういうことがあるのだから、高知のホテルで、似たようなことがあったとしても、ふしぎではない。

 それにしても、いくらなんでも、このスープはおかしいと思って、これ何かおいしくないんだけどなあと家内に言うと、家内はそのスープをみて、「何? それ。」とびっくりしたようす。

 で、その皿を持って、文句を言いにいこうとコーンスープのある所に行ってみて、はじめて気づいた。何と、ぼくが皿にとったのは、コーンスープではなくて、コーンスープをすくうためのお玉を入れておくための容器にためてあった水だったのだ。

 状況が分かって頂けるだろうか。コーンスープは大きな銀色の円柱形の容器に入っていて、銀色のフタがしてあり、中身はフタを開けなければ見えない。その容器のすぐ手前に、直径20センチぐらいの円柱形の銀色の容器があって、水がはってあり、それにコーンスープをとったあとのお玉を浸けてあったわけだ。当然、お玉にはコーンスープが付着しているわけだから、何度もお玉を浸けているうちに、水も濁ってきて、コーンスープの匂いぐらいはするようになる。これが、「冷製コンソメ風コーンスープ」の正体だったのだ。

 そこにいたオネエサンに、よせばいいのに、ねえこれ間違いやすいよ、ぼく、こっちを飲んじゃったよ、というと、オネエサンは非常に恐縮した顔をして、「申し訳ございません」と謝ったが、後で仲間と「まっこと、たまるか!(バカなオヤジがいて、非常に驚いた。)」なんて言って笑ったことだろう。

 テーブルに戻って、家内に事情を話したら、「バカねえ、あんな汚らしいスープがあるわけないじゃない。」「だって、フタがしてあるんだぜ。見えないよ。フタをあけときゃいいんだ。第一、水なんていれておかなくてもいいんだ。お玉を皿に載せておくだけでいいじゃないか。そうすりゃ、間違えないですむよ。」「誰だって、そんなの分かるわよ。まったくねえ。あなたって人は……。」

 いくらぼくが懸命にホテル側の手落ちを訴えても、家内はただただ呆れるばかりだった。


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