25 気になるウォーキング

2011.8.19


 ここ数年のことだが、毎年夏休みになると、家内と夕食後にウォーキングをすることになっている。

 夕食は、二人だけなので、だいたい6時半ごろ。15分ぐらいで食べてしまうから、(食べるのが早いのではなく、食べる量が少ないから。もちろん歩くので酒も飲まないから15分で十分なのだ。)7時を過ぎて、あたりが暗くなりはじめてから家を出る。7月だと、7時ではまだ明るいが、8月も中旬になると7時にはもうほとんど真っ暗である。

 今年も猛暑なので、外へ出ると夜でもムッとする。最初は、暑いなあ、嫌だなあと、ちょっと思うけれど、歩き始めると、それほど苦痛ではない。むしろ楽しい。普段からわりと会話の多い夫婦だが、ウオーキングの時は、更に多くなる。しゃべりながらでないと、歩くことに注意がいって辛くなってしまうからだ。

 コースは毎日同じである。時間もほぼ同じなので、同じものや人を見ながら歩くことになる。これがなかなか面白い。

 家は丘の上にあるので、まず、上大岡駅に向かってゆるやかな坂道を下る。坂が終わると、イトーヨーカ堂の上大岡店がある。その裏手に、数件の飲食店がある。その前を通るのだが、欧風料理の店にはめったに客がいない。たいてい、オーナーシェフが退屈そうに、カウンターに座っている。あ〜あ、今日もダメかあ、大丈夫かなあこの店、またつぶれるんじゃないかなあ、と気になる。この店の前に少なくとも3軒はつぶれているのだ。

 更に行くと、今度はヨーカ堂の側面にあるレストランの前を通る。ここも、ほとんどいつも客がいない。それなのに、もう10年以上も営業を続けている。これはきっと持ち家なんだろう。ここ数年は、手芸教室なんかやったりしている。それならそれで、そういう店にしちゃえばいいのに、と気になる。

 更に行くと、細い道の両側に何軒も美容院が軒を連ねている。だいたいその時間は、店じまいである。こんなに多くて、よくやっていけるなあ、と気になる。普通の男の人がお客でいるわよ、あなたも来てみたら? と家内がいう。この頭で美容院もないだろうと思いつつ、ひょっとしてそれもありかと、気になる。

 鎌倉街道を横切り、その裏の道に入る。赤提灯のいかにも安そうな居酒屋がある。労働者諸君が楽しそうに飲んでいる。こういうところで飲むのはどうかなあと気になる。

 大岡川沿いの遊歩道を歩く。遊歩道というわりには暗いし、道路脇の雑草が伸び放題だ。市はなぜ放置したままなのかと、気になる。道にせっかく敷き詰めたタイルも、桜の木が大木になってしまって、その根によってところどころ盛り上がっている。つまずきそうで危ない。気になる。

 あまりの暑さからか、遊歩道で熟睡しているオジサンがいる。よっぱらいだろうが、もしかしたら死んでいるのかもしれない。気になる。ウォーキングしているオバサンが覗き込んだが、やっぱり声をかけなかった。ぼくらもかけない。これ以上のメンドウはゴメンだ。

 この暑いのに、中高年の男女が手をつないで楽しそうに歩いている。格好からして、また歩き方からして、ウォーキングではない。夫婦かなあ、不倫かなあ、と気になる。夫婦であんなに楽しそうに話すわけないわよ、と家内。それに手をつなぐなんてありえないよなと、ぼく。それにしても、人目を忍ぶ恋ならば、もうちょっと気の利いたところを選べばいいのに、こんなキタナイ川のほとりかあと思うと、二人の仲が更に気になる。

 高校生の男女が、川のほとりに降りて、座り込んで話をしている。蚊にさされないのかなあ、あの二人、どこまでいってるのかなあ、と気になる。宿題終わったのかなあとはなぜか思わない。

 昨日は、18日だった。もうコオロギが鳴き始めた。もうすぐ夏休みも終わってしまう。あの無冷房教室で、「残暑厳しき折」の授業だったら、やだなあ、もう。それが、今、一番、気になる。


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