20 CDとの別れ

2011.7.30


 本の電子書籍化も、毎日やっているとだんだんもの狂おしくなってくるので、休み休みやってはいるが、それにしても、減らない。もちろんすべての本を電子書籍化するつもりはなく、やはり紙の本として残しておきたいものも数多い。紙の本なんていらないとまで思っているわけではないのである。

 しかし、これがCDとなると話が違ってくる。

 実は、その昔、クラシック音楽に凝っていた時期があって、その頃、CDをやたらと買い込んでいた。そのうちモダンジャズを聴くようになってからは今度はそっちのCDを買い込み、その上、歌謡曲やらロックやらも相当数のCDを買ったものだから、よく数えたことはないが、2000枚ぐらいのCDが本棚の一角に犇(ひし)めいている。

 それでも、ジャズや歌謡曲は日常的に今でもよく聴くのだが、それもCDをCDプレーヤーに入れて聴くということは滅多になくなってしまった。たいていは、iPodに入れたものを聴くか、家ならば、パソコンに入れたものを部屋のオーディオ装置に飛ばして聴いている。つまり、パソコンに取り込んでおきさえすれば、CDはもう必要がないのだ。

 もちろん、音質という点から言えば、いまだにLPレコードの愛好家がいて、やっぱりLPは音が柔らかいなんてことを言っているわけで、それが本当なら、やっぱりパソコンからの音よりCDの方が音が柔らかいなんてことになるのかもしれない。

 音質なんてどうでもいいとは思っていない。その昔、オーディオにそれなりに凝っていた時期もあり、その頃は、アンプやスピーカーをいろいろと比べて、それなりの金をはたいて買ったりした。その頃、友人が、CDラジカセで十分じゃないかなどと言うのを、鼻の先でせせら笑ったものだ。CDラジカセから出る音と、数十万円かけたオーディオ装置から出てくる音とでは、それこそ天と地との差がある。それは事実である。

 けれども時代は変わった。CDラジカセはともかく、数万円程度のミニコンポでも、そこそこの音が楽しめる時代となった今、パソコンから出した音と、CDから出した音を聞き比べても、ぼくなどにはほとんどその差は分からない。昔だって、オーディオ雑誌で絶賛されているアンプを買ってみたものの、それまでのアンプと音がどう違うのかは、本当のところよく分からなかったのだ。

 結局のところ、生の音が本当の音だとしたら、CDだろうが、LPだろうが、パソコンだろうが、出てくる音はコピーでしかないのだから、所詮五十歩百歩なのかもしれない。まあとにかく、少なくともぼくはもうオーディオマニアではないから、パソコンから聞ければそれで十分である。それなら、もう本当にCDは全部いらないわけだ。

 ということは、つまり、今後、音楽がネット配信中心になれば(というか、もうなっているらしいが)、CDそのものが滅びる運命にあるということだ。電子書籍が今後普及しても、おそらく紙の本が滅びることはないだろうとぼくは思っているが、それと音楽CDとは根本的に違うのだ。

 本棚に犇めいているCDを全部パソコンに取り込んでしまえば、後はもうCDに用はない。本の場合は、電子書籍化するときに本をバラバラにしてしまうので、後は紙として捨てるしかないが、CDの方はそのまま残るから、後は業者に売るか誰かにあげてしまえばいい。もっとも売るといっても、おそらく悲しいぐらい安いだろうけれど、それでも無用の長物として貴重な空間を占拠されているよりはマシである。

 かくして、また「全CDのリッピング(パソコンにデータとして読み込むこと)」という壮大な計画が持ち上がった。実際には、既にジャズのCDは200枚程度だったので、すべてリッピングを終了している。後は、クラシックだ。

 実際に始めてみると、これがまた膨大な数である。何でこんなに買ったのだろう。いやそもそも何でこんなに買えたのだろう。いくら何でも無駄遣いもはなはだしい。このオロカモノメが! と昔の自分を叱ってやりたい気分である。

 まだ全CDの半分も終わっていないが、それでもその曲を全部聴くのには、一睡もせずに聴きっぱなしで聴いても、56日かかるとパソコンのデータに表示されている。ということは、一日に2時間ずつ聴いても、約2年かかる計算となる。別に全部聴かねばならないわけではないが、まあ、何というか、呆れたことではある。


 

Home | Index | Back | Next