13 もうすぐ夏休み

2011.7.5


 あと半月もすれば、夏休み。今年の夏休みは50日以上もある。学校へは一度もいかなくていいし、学校行事へ参加しなくてもいいのである。これからの人生では、数年はこうした日々が続くわけで、更にいえば、65歳を過ぎると、おそらくもう非常勤講師としても働くことはないだろうから、生きていれば、それこそ「毎日が夏休み」となるわけで、そうした意味でも、この夏休みはこれからの人生をどう過ごすことができるかのいわば試金石となるわけである。

 といっても、それほど大げさに考えて勢い込んでいるわけでもない。定年後の人生を第二の人生と位置づけて、それをいかにして充実したものにするかということが大きな問題としてよく話題になるが、あまりにそこに大きな期待をかけると、失望も大きい。期待と失望はコインの両面のようなもの。期待しなければ失望もない。平穏な日々を暮らすには、何の期待もせずに、ただその日その日を感謝してつつがなく生きていこうと思うことだろう。それがいちばん望ましい老後の生き方だと思うのだが、それができる人とできない人がいるのも事実である。

 「仕事こそ人生」と思って生きてきた人が、いざ仕事をやめてしまうと、生きる目標を見失って、茫然としてしまうというような実例は山ほどあって、そういう人は「だから仕事人間はダメなんだ。」といったような目でみられがちだが、だからといって「仕事こそ人生」と思ってがむしゃらに働いてきた人生が間違いだったなんてことはこれぽっちもない。胸をはって「いったいどうすりゃいいんだ。」と叫びながら茫然とすればいいのだ。そして「やっぱりこんなことではいかん。」と思って、新たな仕事を見つけるのもよし、ボランティア活動に活路を見いだすもよし、「仕事こそ人生」の第二弾ということで生きていけばいいのだと思う。現役時代に、「仕事こそ人生」人間にさんざん迷惑かけて釣りにゴルフに海外旅行にかまけてきた人間に、バカにされるいわれはこれっぽちもないではないか。

 ぼくはといえば、「仕事こそ人生」と思ってきた人間ではない。むしろいやいや仕事をやってきたといったほうがいい。授業をしているときのぼくは、とてもそうは思えないほど、跳んだりはねたりしていて、先日も、授業が終わって職員室で「ああ、疲れた。」とため息ついたら、たまたま職員室に来ていた生徒に、「だって、一人であんなにはしゃいでいるんですから、疲れて当たり前ですよ。」と言われてしまった。私生活ではうつうつとしているのに、舞台にあがると突然テンションの上がる芸人のようなものである。芸人としてのサガがそうさせるのであって、決して「教育への情熱」なんて大げさなものからではない。

 しかしだからといって、なるべく仕事では手を抜いて、趣味に全力を注いできたというわけでもない。まあ、仕事もそこそこ真面目にやって、趣味も何とかかんとか続けてきたというにすぎない、まことに中途半端な人生を過ごしてきたのであった。そしてこれからも、その中途半端さには何の変わりもないだろうということは自分のことだからよく分かっている。

 しかし、である。この前、還暦だといって大騒ぎしたと思ったら、あっという間に61歳になり、あと3ヶ月もたてば62歳になってしまうという驚くべき現実を目の前にすると、さすがに、この「中途半端さ」をある程度までは修正することは可能ではないか、いや、そのくらいのチャレンジ精神は持つべきではないのかと思ってしまうのだ。

 ほんとうは「チャレンジ精神」という言葉もあんまり好きではない。できないことに無理矢理挑戦するというイメージがあるからだ。80歳を過ぎてエベレストに登ったとか、鉄棒で大車輪を30分も続けたとか、そういったイサマシイ話にすぐつながってしまう。そういうイサマシイ話ではなくて、もうちょっと身近な、多少がんばれば何とかなるかもしれないといった程度の「チャレンジ」である。まかり間違っても、勝間和代のように、大型バイクの免許をとるとか(実際に彼女は免許をとったが、つい先日路上で転倒して腕を骨折するという大怪我をしたらしい。)、徳光和夫が24時間マラソンをするといったような大それた「チャレンジ」ではない。(ほんとうに徳光さんは大丈夫なんだろうか。)

 で、この夏のぼくの具体的なチャレンジ目標のひとつは、水墨画を徹底的に練習することだ。書道の方は先生について学んでいるが、水墨画まではそうはいかない。水彩画のときのように、技法書を頼りに独学でいきたい。水彩画を独学で長いこと描いてきて、書道も以前よりは多少ともマシな字が書けるようになったらしい今、水墨画に手を染めることはぼくにとっては必然的な成り行きのように思えるし、ぼくが長年夢見て追い求めてきたことでもあった。

 第二には、本の整理・処分・電子書籍化をだいたい完了させること。今までに目標の約半分は達成できたが、この夏でいちおうの区切りとしたい。単行本の電子書籍化は、ほぼ終了として、文庫本の8割は電子書籍化してしまいたい。これで、本棚は格段にスキマができることだろう。

 目標は少なくして、欲張らないこと。けれども、立てた目標は、なるべく達成するように努力すること。こんなことをここに書いてもしょうがないが、いちおうこう言いふらすことで、少しだけ自分を追い詰めておきたいという、いわば禁煙宣言のようなものである。

 

 

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