3 不思議だ
2011.5.16
怖いものといえば、昔から「地震・雷・火事・親父」と言われてきたが、それは一般論で、人によって怖いものは千差万別のようである。
中学生時代、昆虫採集に熱中していたぼくだが、その頃から、足が6本を超えるものは怖かった。つまり、クモ、ムカデの類である。クモなどは足が8本だから、昆虫よりたった2本多いだけなのに、何だか気持ち悪くて怖い。特に大きいのは震えがくるほどで、家の中によく出現するアシダカグモなんかは最悪。これが出ると、新聞紙などで叩きつぶすまで落ち着いて寝られない。しかし家内が嫌がるゴキブリは、手の上に乗せて可愛がりたくはないが、決して怖くはない。足が6本だからだろう。
足が8本ならダメというなら、カニとかタコも怖いかというと、そんなことはなくて、食べるぶんには結構なものだ。しかし、山道など歩いていて、真っ赤な沢ガニなどが突然現れると、ぞっとする。やはり8本足はよくない。山道でみんながキャーキャー言って怖がるヘビは、好きではないが、全然怖くない。毒蛇ならともかく、ふつうのヘビなら、むしろ可愛いぐらいなものだ。なにしろ足がないんだから、怖いわけがない。
ぼくの場合は、その他、高い所、グルグル回るもの、窓のない所などがひどく怖い。高所恐怖症ならびに閉所恐怖症である。したがって、観覧車とか、ジェットコースターとか、洞窟とか、飛行機とか、すべてダメである。ジェットコースターに乗ってキャーキャー騒いでいる若者をみると、いったい何が悲しくて金まで払ってこんな目にわざわざあうのだろうかと不思議でならない。
みなとみらいの大観覧車なんて、この前の地震のときは、いったいどうだったのだろうかと考えるだけでもオソロシイ。そんな記憶が生々しいこの時期だというのに、平気で乗っている人たちがいる。てっぺんに来たときに、地震が来たりして停電になって閉じ込められたらどうしようとか思わないのだろうか。不思議だ。不思議すぎる。
不思議といえば、もっと不思議な人がいる。家内の父だ。父は長いこと眼科の開業医をしてきた人で、今は入院しているのだが、家内や家内の母が見舞いにいくと、よく目がかゆいというらしい。そこで目薬をさそうとすると、ひどく怖がって顔をそむけるのだそうだ。たった1滴の目薬を目に垂らすのが、そんなに怖いだろうか。たしかに、目薬が目玉に落ちたときのちょっとした衝撃は、気持ちのいいものではないかもしれない。しかしちっとも痛いことはないではないか。しかも、何十年という間、人様に目薬を差し続けてきた人だ。そういう人がこともあろうに目薬を怖がるなんて、ほんとに不思議だ。
まあ、父からすれば、飛行機を怖がって、還暦すぎても一度も乗ったことがない君のほうがよっぽど不思議だと言いたいところだろう。
人間というのは、お互いにこうやって、不思議だ、不思議だと思って生きていくものなのかもしれない。