97 ストレス解消法

2011.4.16


 スピッツのボーカルの草野さんが、今回の地震による急性ストレス障害のために入院し、コンサートも中止になったとかいうことを小耳に挟んだ。スピッツといっても、犬のことではなく、歌のグループで、普通の高齢者の方にはなじみがないばかりか、家内も知らないという始末だが、ぼくはどういうわけか彼らの歌が好きで、アルバムも持っているし、iPodでよく聞いているのである。

 ネットでは、この草野さんの入院(していないという噂もある)に対しては、概して冷たい反応が多く、2チャンネルなどを覗くと、「そんな人もいるんだなあ。」とか「ひ弱だ。」とか「要するに甘えているんだ。」とかいった書き込みが多く見られる。もちろん同情的な書き込みもあるが、少数派のようだ。まあ、日本人全体にアンケートをとったわけではなく、たかが2チャンネルの一つのスレッドの中の意見であるわけだが、それでもこの冷たい反応にはちょっと驚いた。

 ぼくなんかは、実に共感できる話で、これだけの大きな出来事にストレスを感じない人の方がむしろ不思議ではないかと思うのだ。ぼくは幸いにして入院までには至らないけれども、ストレスはほんとに大きいし、何とかそれを軽減するべく、ひたすら部屋の片付けをしたり、庭の掃除をしたり、挙げ句の果てには近所の人と協力して、長年の懸案だった隣の家の森のように茂った木を片っ端から切り倒したりした。もちろんぼくは腰が痛いから、切った木を細かく鋸で切ることぐらいしかできなかったが、もう他の隣人たちは、チェーンソーを持ち出して、5メートル以上にも伸びて電線にもひっかかりそうになった泰山木やら楓やらをなぎ倒した。これは、ほんとにストレス解消にはもってこいだった。

 しかし、そんなことをしても、やはり不安やらストレスやらは完全に消えるわけではない。人間の心はなかなかコントロールできないというのは、心理学の常識である。

 だから、「なんて心の弱いヤツだ。」とののしられても、それはその人の責任じゃない。「心を強く持とう。」と決心しても、そうはいかないこともあるのだ。

 東電の清水社長が、それこそとんでもないストレスのために入院してしまったことで、「ヤワなエリートだ。」とバカにされたり、非難されたりしているが、それだって、彼の身になって考えてみれば、むしろ当然のような気がするし、そんな立場で、健康そのものでいられるほうが人間的におかしいのではないかとさえ思えるのだ。

 さて、このストレス多き日々をどう生きるか。心理学者や精神医学者のアドバイスに、怖いときは「怖い!」って声に出して言うと結構ストレスが減るというのがあった。これは思い当たるフシがある。小学生のころ、指先のちょっとした傷がうんでしまって、左手の人差し指の爪をはがすという手術をしたことがある。手術そのものは、もちろん麻酔をかけたから痛くなかったが、家に帰ってしばらくしたら、麻酔が切れてひどく痛くなってきた。その時、父が、「痛いときは、痛いと叫べ。そうすれば痛みが減るぞ。これは軍隊の経験だ。」と言った。言われたとおり「痛い! 痛い!」と叫んだら、すっと痛みが引いたような記憶がある。それときっと同じことだろう。

 それから、もうひとつのアドバイス。「小さな幸福を探し、それを味わおう。」というもの。これは、震災前に書いた。どんなに大変なときでも、何か小さなことに喜びを見つける力、あるいは技術を身につけることが、何にも増して重要なようだ。

 庭にスミレが咲いた! 京急の青い電車を見た! つまらないダジャレが受けた! 納豆がしみじみうまかった! などといちいち大げさに喜んでいる(わざと大げさに喜ぶことがコツらしい。いちいちノートに書き出せと言う人もいるくらいだ。)うちに、いつしか心が癒されるのかもしれない。

 

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