24 この1年

2009.12


 今年も余すところ5日あまりとなった。去年もこの1年をふり返って書いたなあと思って、去年の今ごろのエッセイを見てみたら、そういうことは全然書いてない。エッと思って、もう1年前のエッセイを見たら、書いてあった。あれから2年もたっていたとは驚きである。まったく油断がならない。これからは毎年の恒例にしよう。

 それで、今年1年。

 いろいろあったけれど、やはり還暦を迎えたということがいちばん大きい。何といっても、人生のひとつの節目である。栄光の教え子の母親のグループと、青山高校時代の担任クラスのグループが、それぞれぼくの還暦祝いの会をやってくれた。日頃は教師は嫌いだなどとうそぶいてはいるが、こういうことがあると「教師冥利」とはこのことかと、心底嬉しかった。人生も捨てたものではないと思えてくる。

 今年はまた芸術的な体験の多い年でもあった。長年見続けているキンダースペースの芝居も、2月のイプセン作『野鴨』、6月の『オダサク×ダザイ』、10月の『架空線の火花』の3本。いずれも充実した舞台だった。特に後の2本は、織田作之助、太宰治、芥川龍之介といった作家の小説の独特な手法を伴った演劇化の実験ともいうべきもので、劇作家・演出家の原田一樹氏の力量には目を見張るべきものがある。劇団員も見るたびにうまくなっていくので楽しみな劇団である。

 他に演劇では、青山高校時代の教え子の那須佐代子さんが出ているという縁で見た、新国立劇場の『ヘンリー六世』。上演時間9時間という大作だったが、3回に分けて見た。『ヘンリー六世』などという題だけ聞くと、いかにもつまらなそうだが、これが非常に面白かった。題名だけで決めつけてはいけないという、いい例だ。シェイクスピアというのはやはりたいした劇作家である。

 後は、これも栄光の卒業生という縁で聴いた、内藤晃さんのピアノリサイタル。そして、現在の教え子のA君のピアノ発表会。

 芸術は、このろくでもない世の中で、生きていてよかったと思える稀な時間を与えてくれるものだということを、これらの舞台やコンサートで再確認した。

 本でもいろいろな出会いがあった。12月になって、俳人の加舎白雄という人を知った。蕪村と同じ時代を生きた俳人だが、今まで寡聞にして知らなかった。その寂寥感に満ちた俳句に魅了されている。

 知っているようで知らないことの多い世界。来年もまた新たな出会いがありますように。


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