23 キレるジジババ

2009.12


 ちょっと前に『暴走老人』という本が出たが、そこでは主に「キレるジイサン」が扱われていた。近ごろやたらジイサンがキレて暴れているという実態には思い当たるフシが多々あり、それに比べればバアサンの方はやはり女だけあってどこか穏やかだよなあとも思ったのだったが、しかし実際にはそうでもなさそうだ。

 自宅まで最寄り駅から歩いても15分ぐらいなのだが、帰宅時には心身ともに疲れているのでどうしてもバスに乗ってしまう。先日、学校も試験中のこととて早めに終わり、午後4時頃に駅のバスターミナルでバスを待っていた。ぼくの前には10名ほどの乗客が待っていた。この時間だと、そのほとんどはジジババである。そう言っているぼく自身、隠れもないジジイであるわけだなのだが……。

 このバスターミナルは始発駅なので、たいていは定刻の数分前にはバスが来るのだが、その日は珍しく定刻になっても来なかった。道路が混んでいると、いくら始発とはいっても、ローテーションの関係で遅れることがあるのは仕方ないことなので、ぼくはおとなしく待っていたのだが、定刻を3分ほど過ぎたあたりから前に並んでいるバアサンたちがブツブツ言い出した。

 回送車が止まっているのを指さして、「あそこに空いているのがあるんだから、あれを出せばいいじゃないの。」「まったく何してるのよ。」などと言い合っている。10分ほど遅れてようやくバスが来た頃には彼女らの怒りは頂点に達していて、バスが着くなり運転手にくってかかった。運転手が「すみません。事故があったものですから。」と謝っても「それならそれで、ちゃんと誰かが説明しなさいよ。」とすごい剣幕。乗車してからもまだブツブツブツブツ。

 ぼくは後ろの方の二人掛けの座席に座って発車を待っていたが、乗る人も多いのでそう簡単には発車しない。すると突然、ぼくの隣に座っていた割合に品のよさそうに見えたバアサンが、「バカ! 早く出ろってんだ!」と吐き捨てるように呟いた。

 今度はぼくがキレかかった。顔をもう一度見たかったが、隣なので覗き込むわけにもいかない。ただその小さな体は硬直して、まるで怒りの塊となっているかのようだった。たかが10分程度の遅れでなぜそこまで怒り、キレてしまうのか。「バカはオマエだ!」と喉もとまでこみ上げてくる言葉を飲み込むのがやっとだった。

 こうして、日々、キレたり、キレかかったりしているジジババなのである。



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