28 カメラ事始め

2006.3


 初めて自分のカメラを持ったのは、小学生の低学年の頃だった。当時、紅梅キャラメルというキャラメルがあったことは以前に書いたが、そのキャラメルには点数カードが入っていて、それをためるとカメラがもらえた。カードは巨人軍の選手カードで、全員の選手を集めるのに当時の子どもは熱中したらしい。野球にあんまり興味のなかったぼくは、とにかくカメラ欲しさにひたすら紅梅キャラメルを買ったのだが、結局カメラがもらえるほどのカードは集まらなかった。ところが家の前に住んでいた友達がカードを集めてそのカメラを手に入れてしまった。こうなるともうどうしようもない。欲しいとなると、手に入れるまで騒ぎまくるのがその頃のぼくの常で(この点は、今でもまったく変わっていない)、父親に友達と同じカメラを買ってくれと、うるさくせがんだ。そのかいあって、とうとうカメラを手に入れたのである。値段はたしか500円で、エボニーカメラといったはずだ。

 カメラで何を撮るんだ? と友達だか親だかに聞かれて、スズメを撮るんだ、と言ったことは妙にはっきり覚えている。もちろんそんなカメラでスズメが撮れるはずもなかったが、今になっても、鳥はぼくがもっとも憧れる被写体なのだから、三つ子の魂とはよくいったものだ。

 2台目のカメラは、フジペット35という35ミリカメラだった。これが小学生高学年のころ。そして中学生の頃には、当時のはやりだったハーフサイズカメラで、オリンパスペン。これは、たとえば24枚撮りのフィルムで48枚撮れるというので画期的だった。中学生にとっては、フィルム代というのは大変な問題だったからだ。

 高校生になったころだったろうか、とうとう一眼レフのカメラが欲しくなった。望遠レンズをつけて鳥を撮りたいという押さえがたい欲求が頭をもたげてきたのだ。アサヒペンタックスが欲しかった。それなら何とか手が届きそうだった。もちろん、自分の小遣いで買える金額ではないから、父親にねだるしかない。ある日、おそるおそる「ペンタックス、買ってもらいたいんだけど。」と父に言うと、一瞬父は黙って、それから自分の部屋に戻り、一台のカメラを持って現れた。「これはオレが月賦で買ったんだ。これを使え。」見ると、何とニコンFだった。とうていペンタックスなど買ってもらえるはずもないと思っていたのに、それを遙かに越える高級機を目の前にして、心がふるえた。


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