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抱いた女なら数知れずいる。
ぞれは望まずとも自然に手に入るものであったから『執着』などするものではないと。
カムランはずっと思っていた。
けれども。
いま腕の中で眠る女に出会って、その考えが変わったことを自覚している。
この女でなければだめだと、そう感じる自分が何故か嬉しい。
微かに聞こえる規則正しい寝息と上下する白い胸。
閉じられた目にかかる睫毛の長さも、あどけない微笑みも。
すべてこのまま閉じ込めてしまいたいほど大切で、愛しおい。
それは正直な彼の気持ちであるし、まっすぐな愛情の表現でもあった。
だから昨夜も素直に ―― 『数知れず』の部分も含めてバカ正直に ―― そう言ったのだが、何故か彼女の機嫌を損ねてしまったらしい。
―― 女はつくづくわからない。
そんなふうに考えながらも、女の寝顔をみて思わず笑みが零れているのを。
彼は自覚しているのかいないのか。
常夏の国の、さわやかな朝の風がふたりの上を通り過ぎて。
彼女が気だるげな目覚めのうめき声を漏らす。
肘をついて斜めに身を起こしながらカムランは語りかけた。
「起きたか」
朝の光に、眩しそうな表情をしたあとに、彼女はそっと頷いた。
「つまらんな」
何がつまらないのか、わかりかねている女に彼はにやりと笑う。
「おまえが起きなければ、このま抱いていようと思ったのだが」
言いながら腰に手を廻し自分の方へと体を引き寄せるカムランに、朝議の時間に間に合わなくなるからそろそろ起きましょう、と彼女は慌てて言う。
その言葉にまるで駄々をこねる子供のような表情で ―― まさに駄々をこねているのだが ―― 彼は一言。
「嫌だ」
そんな我侭を、と呆れる女。
彼は身を転じて、その手首をとり彼女の体を寝台の上に押さえつけた。
けれどもその多少手荒な行動とは対照的に、彼はやさしく彼女に接吻する。
まるでそれは、どこからかたゆとう南国の甘い花の香りを。
逃がさないようそっと息を吸い込む時のように。
大切に、大切に。
そしてそのくちびるはそのまま、彼女の頬をなぞり、耳をそっと食んでから首筋の線をつたってやがてふくよかな乳房へと到達した。
熱い息を内側に込めながら、その先端を丁寧に
舐る。
―― 本当の我侭など聞かせたのはおまえ以外ない。
そう、兄の意志を継いで王となったあの日から。
その言葉は心の中だけで呟いて。
彼女の体に指を這わせながら、冗談なのか本気なのかわからない表情で彼は囁いた。
「これからは朝議でなく夕議に変更しよう」
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そんなんでいいのか、国王陛下よ。
お兄ちゃんが草葉の陰で泣いちゃうよ。(死んでないから)
作成05.05.29、再録 07.12.21