つい最近まで、運動中にはあまり水分を補給しないほうがいいというのが定説でした。でも、運動生理の研究が進み、それが間違った理論だということがわかっりました。新しい考え方では、積極的に水を補給する『ウォーターローディング』ということが言われています。本格的に喉が乾く前に、少しずつ水を補給しながら運動するというわけです。
汗によって水分が消失すると、血液が濃くなり、血流が悪くなって様々な障害を引き起こします。いわゆる脱水症状と呼ばれるもので、虚脱感や局部的な痙攣などの前駆症状からはじまり、吐き気、発熱、歩行困難、全身痙攣、ついには死に至る場合もあります。水分が胃から吸収されるには30分以上かかるので、脱水状態になってから水分をあわてて補給しても遅く、進んだ症状を改善するためには、さらに多くの時間がかかります。ウォーターローディングでは、前駆症状以前の段階で未然に防ごうというわけです。
荷物を背負って歩くトレッキングの運動量は、ゆっくり歩いていても意外に多いものです。水分の消費も多いので休憩のたびに水分を補給するくらいが適当です。もちろんがぶ飲みはよくありません。少し喉を湿らすていどで十分。そのほうが、喉の乾きも抑えられ、結果として水の消費量も少なくて済むことになります。体内からは、水分とともにミネラルも失われますから、スポーツドリンクなどのミネラルを含んだ飲料を補給すれば効果的です。
ふつう、登山では30分ごとに休憩を取るといいと言われますが、これはひとつの目安で、明確に何分といえるものではありません。運動を開始してから、はじめの20分くらいは、むやみに苦しい状態が続き、その山を越えると定常状態と呼ばれる安定期が訪れます。さらにしばらくするともう一度苦しくなり、その山も越えると第二次定常状態という長く続く安定期に入ります。ここまでの段階で休んでしまうと、休み癖がついて先に進めなくなります。歩き始めてから最初の休憩は、三度目に苦しくなったときを目安にするといいでしょう。さらに、その先の休憩は、すでにペースができているはずですから、あまり時間にこだわらず、急な登りにさしかかる前とか、稜線上のビューポイントにさしかかったときなど、適当な間を置いて、節目でとればいいでしょう。
休憩時には、水分補給とともに、折りをみつけて行動食を摂るといいでしょう。とくに朝食が早くて、昼食までの間の行動時間が長いときなどは、空腹を我慢しているうちにいわゆる「シャリバテ(空腹感から体に力が入らなくなってしまうこと)」に陥りやすいので、空腹を感じたときに少しでも行動食を補給しておいたほうが無難です。
●追記
水分補給の必要があるといっても、多くとりすぎればまた逆効果です。大汗をかいた後で冷たい湧き水などに出会うと、思わず喉を鳴らして飲みたくなるところですが、ここでガブ飲みしたら100%バテる結果となります。ぼくは、ことのほか汗かきで、いつも水分補給では悩まされる口ですが、一口で飲む量を少なくするようにしてから、トータルで飲む量が少なくなり、水の飲みすぎでバテることも少なくなりました。また、冷たい飲み物は、喉越しが気持ちよくてついつい度をこしてしまうので、そのまま水を飲むのはグッとこらえて、熱い紅茶を沸かすなどして水分補給するように心がけています。