[ヤブこぎ]

 地図に載っているルートでも、あまり人が歩かないようなサブルートや、あるいは草木の茂る夏の間はルート上にヤブがかかっていることが度々あります。
 ヤブの中を歩くのは、いっぱんに「ヤブこぎ」と言われているように、歩くというよりも漕ぐと形容したほう適当です。平泳ぎするようにヤブを左右にかき分け、茎を踏みしめるように足を前に出して進むその様子をよく表しています。
 ヤブこぎでまず注意しなければならないのは、肌をなるべく露出しないようにすることです。熊笹の葉にむき出しの肌を切られたり、折れた枝先が刺さったり、さらにはヤブ蚊などの虫に刺されたり、いろいろリスクが潜んでいます。できれば軍手などで、掌までガード下ほうがいいでしょう。
 何人かのパーティで進む場合は、必ず、先の人が後の人へかき分けたヤブをバトンタッチします。後ろを注意せず、無造作に手を離すと、後続の人の顔を打ったりして、思わぬアクシデントを招くことになります。
 また、雨や露などでヤブが湿っているときは、とくにスリップしやすいので注意しましょう。
●追記
 ヤブこぎでは、直接樹木に肌が触れるので、ウルシなどのかぶれを起こす植物や、蜂などの有害昆虫や動物にも、じゅうぶん注意しなければなりません。
 また、やぶの中を歩くコツとしては、身を低くして見渡して、獣道のような踏み跡を見つけ、それを辿ることです。獣たちも、なるべく歩きやすいところを探して通りますから、それを辿れば、労力が少なくて済みます。

[渡渉]

 逆説的な言い方になるけれど、渡渉は、どうしようもない場合を除いて、なるべく避けるべきです。とくに、水位が膝上まであって、太いザイルのような確実な確保手段を持たないときは、自殺行為以外の何ものでもありません。
 渡渉が避けられない場合、まず、流れを真っ直ぐに横切るのは避けましょう。体の真横から抵抗を受けると、体勢が崩れやすく、簡単に押し流されてしまいます。
 渡渉は、流れに対して斜めに横切るのが正しい方法です。しかも、どちらかといえば、「ダウン・アンド・アクロス」つまり、下流に向かって斜めに流れを横切るほうが労力が少なくてすみます。
 流れの中の状態がわからないので、靴は履いたまま。フリースなど水を含むと重くなるウェアを着ていたら、それを脱いでザックに収納します。装備はなるべくポリ袋などに収納してからザックに入れます(そうすれば、万が一流されたときにザックが浮き代わりになります)。そして、丈夫な枝などを支えにし、足場を探りながら慎重に渡ります。
 いちど流れに踏み込んだら、途中で躊躇するのはかえって危険です。途中から諦めて戻ろうとするときは、流れの中で方向転換すると体勢を崩しやすいので、なるべく岩に上がるとか、流れの緩やかなところを選んで、態勢を立て直します。

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