急な傾斜の岩場での登降は、「三点確保」がセオリーです。両手両足で四本、必ずそのうちの三点で体の安定を確保しておき、一点だけを動かして体を移動させることを言います。例えば、両足と左手で体を支え、右手だけを動かしていいホールド(支点)をつかむ。今度は両手と右足は動かさず、左足だけを次のホールドに動かすといった具合で、体の安定を確保したまま移動するわけです。
また、岩場では恐怖心から岩にへばりついたようなかっこうになっている人をよく見かけますが、これは、もっとも滑落しやすい態勢です。体を支えるいちばん重要なポイントは靴底のフリクション(摩擦)です。岩から体を離して、足に重心をかけるようにすればフリクションが効いて安定するのですが、怖がって体重を足にかけられないと、十分なフリクションが得られず、滑りやすいのです。
下りの場合、急傾斜だとどうしても岩に対面する形(登りと同じ体勢)をとりたくなるものですが、これはよほどの場合を除いて避けたほうがいいでしょう。この態勢では、足元の視界が悪くなり、最適なホールドがさがしにくくなってしまうのです。逆に岩に背を向けても、恐がってへっぴり腰になってしまうと、これも、靴底のフリクションを失って滑落しやすくなります。下りでは、大胆に両足に重心をかけ、気分的には前のめりくらいの態勢をとるのがコツです。
「大胆かつ慎重i」、それが岩場歩きのコツと覚えておくといいでしょう。
●追記
先年、山梨県南部にある乾徳山山頂直下の岩場で、中年女性が転落死するという事故がありました。夫婦でこの山に登りに行き、岩場に差し掛かって奥さんのほうは自信がないので下で待つことにしたまではよかったのですが、一人で不安になって、旦那さんの後を追って登って転落したようです。岩場は、登りよりも下りのほうが難しく、なんとか勇気を奮い起こして登ったものの、途中で先に進むことも降りることもできずに立ち往生といったケースがよくあります。もし、自信がなくて、有効な確保手段もなければ、岩場を前にして、引き返す勇気が必要です。岩場でのトラブルは、自分だけでなく、救助するものにとってもリスクが大きいということを忘れてはいけません。乾徳山のケースでは、この山が比較的ポピュラーなハイキングコース的な山として紹介されているので、初心者ながら出かけたものの、山頂直下で思わぬ障壁に出くわしてパニックに近い状態に追い込まれたのだと思います。初心者向けと紹介されているコースでも、途中に小規模ながらも危険性をはらんだ岩場があったり、滑りやすい丸太が渡しただけの橋があったりします。フィールドに臨むときは、それなりの情報集めや日ごろから体を動かすなどの準備は不可欠です。
余談ですが、ボルダリングといって、落ちても怪我をしないような高さの岩に取りついて遊ぶ方法がありますが、まずは、こういうことで、バランス感覚をつかむなどしておくのもいいでしょう。