ある日、一人で留守番をしていると、ホトホトと扉をたたく者がいる。
はぁい… と言って扉を開けると、そこには背広のおっさんが2人。
そりゃ、今だったらいきなり扉を開けたりはしない。
ドアのこっちから誰何して、でっかい声で名乗らせるよ。
が、まぁ、そんときゃガキだったからな、とにかく開けた。
で、このおっさんが何用?
とか思っていると、ひとりがおもむろに内ポケットに手を入れ…
目の前に突き付けられた黒い物体!(どーん!)
「手を挙げろ!」
………
じゃなくてぇ…(あたりまえだ!)
「こういう者だけど、お母さん居る?」
はい、皆さんに質問。
あなたは何歳くらいから「こういう者=刑事」と知ってました?
とりあえず、そん時の私は知ってた。
突き付けられた黒い物体が、警察手帳だという事も。
「いません」
「何時頃帰ってくるのかなぁ?」
「わかりません」
まぁ、会話はこんな程度だったと思う。
それ以上ガキに聞くことなんか無いから、おっさん達はさっさと帰って行った。
が、問題はここからだ。
家に刑事が来たんだ。それも、私服の、だ!
で、私服の刑事が聞き込みに来るとしたら、それは…
殺人事件に決まっている!
がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!
ガキの頭ん中ぁ、もうこの事で一杯だ。
刑事は何も聞かなかった。
近所で誰か見かけたか?とか、こんな声を聞かなかったか?とか、
お父さんとお母さんが噂してなかったか?
とか…。
ガキでも何かは聞けるだろう?
けど、何も聞かなかった…。
つ事は、聞いちゃいけないんだ。
下手に聞いたらマズいんだ…。
聞いたらなんでマズいか…?
それは、お父さんが殺人犯だからだ!
なんでここで、お母さんじゃなくてお父さんなのか…というところが、いかにもガキんちょのジェンダーの固定観念らしいところなんだけどね。
しかし、父親が殺人犯だとすると、これは大問題だ。
お父さんは警察に引っ張っていかれるだろう。
お母さんも引っ張られるに違いない。
お父さんもお母さんも居なくなって、自分はどうやって生きて行ったら良いのだ?
いやいや、噂はもう広まって居るだろう。
(ひそひそ)
「ねぇねぇ、○○さんちのお父さん、殺人犯なんですって」
「ほんと… 怖いわねぇ」
「××ちゃん、○○さんちの△△ちゃんとは、もう遊んじゃダメよ」
こうなったら不安は止まらない。
もう、この場所にも住んでいられないだろう。
お父さんもお母さんも居なくなって、自分は親戚に引き取られて、そこを転々とするのだ。
殺人犯の子供は苛められるに決まってる。
継母もそこの子供も、苛めるだろう。
私ゃ、その後の人生を諦めた。
そう言えば、お母さんが帰ってきたら何て言おう…。
いや… バレたら駄目だ。
知らんふりしておこう!
これは自分だけの秘密なんだ…(何故だ!)
自分が守らなきゃいけない…(何をだ!)
などと… 意味不明の論理を展開をしながら、不安な妄想はまだまだ続く、どこまでも。
結局母親が帰ってきても、何も言えなかった様な気がする。
そして、その陰隠滅滅とした妄想は、その夜母親が近所の人と電話しているのを聞くまで消えなかった。
当然、殺人事件なんかじゃなかった。
選挙の戸別訪問かなんかの聞き込みだったのだ。
今、冷静に思い返してみると、そんな事のために、私服刑事が聞き込みしていたか、怪しいものだとも思うのだが、取り敢えず、殺人事件なんか無かったし、父親も母親も捕まったりしなかった。
しかし、あれ以来、私ゃすっかり警察不信である。
小学校の何年生かは覚えていないが、そんなガキんちょを半日も、殺人犯の子供扱いして(してないって!)、不安と恐怖のドツボに陥らせた警察が、今でも大っキライだったりする。
そういえば少し前に、近所の交番所から巡回が来た事がある。
火事とかあった時に、そこに誰が住んでいて、緊急の連絡は誰にしたら良いのか、そゆう事を聞いてまわっていると言う。
住んでる者の一覧、生年月日、果ては実家の連絡先まで聞いて来る。
んなもん、なんであんたに教えにゃならんの!?
で、私ゃおもむろに聞いてみた。
「警察手帳持ってます?」
「え? ありますが…」
「じゃぁ、見せて下さい」
「え? えぇと… それはですね… ちょっと…」
「何で見せれないの?」
「いや… ××交番所の△△ですので、この携帯使って、○○警察に××交番所に△△というのが居るか確認してもらって良いですよ」
何故かね、そいつは最後まで手帳を見せてくれなかったよ。
警察手帳ってぇのは、そんなに安易に見せたらアカンもんなんか?
あん時ゃ、ガキんちょ脅すのに、突き付けてたやんけぇぇぇ!(脅してないって!)
結局、そんなヤツに大事な個人情報を教えてやる気なんかなかったから、何も言わずにお引き取り願いましたよ。
何かあった時困るのに…と、ぶつぶつ言いながら、そいつは帰って行ったけどね。
まぁ、そんな訳で、
私ゃ、警察がでぇっきれぇじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!