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この世界でも普通に、会議はあるらしい。…私は参加しなかったけれど、それはまあ、今の立場を考えたら不思議ではない。
会議場を早足で歩きながら、一つ一つ部屋を見ていく。
「…いませんねえ…。」
どこにいるんだろう。イギリスさん。用がある時に限って、いつもの部屋にはいないなんて…
首をかしげて、あたりを見回して。

さらり、と視界の端で揺れた鮮やかな金髪に、あ、とそっちを見る。
やっと見つけた。ひとつの部屋の中に、確かにイギリスさんの姿。
頼まれた書類を確認して、よし、とうなずいて、半分開いたドアをノックしかけて。
ふわり、と、漂った甘い香りに、動きを止めた。
…これ、は。
その香りが何か、に気付く前に、目の前で笑うイギリスさんに、抱きつく、影。
甘いメイプルシロップの香り。
「…カナダ、さん。」
抱きつかれて、イギリスさんは困ったように眉を寄せながら、それでも愛しそうに笑った。楽しそうな笑い声が、二つ。

それを扉の影から見ながら、
……ああ、そうか。
ふと、思いついてしまった。
ここは、私とイギリスさんが出会わなかった世界。ならば…イギリスさんが私以外の誰と付き合っていても、それはおかしくないこと、だ。
そう、なんだ。思うだけで、彼をずっと遠くに感じた。数歩の距離が、声をかければ届く距離が、遠い。
なんだか泣いてしまいそうになりながら、踏み出しかけた足を引いて、何も言わずに走り出した。


イギリスさんの書斎の前で、よし、と決意を固める。
「…失礼、します。」
そう声をかけると、ああ、と声。
…会いたくはない。今、少しでも何か言われたら、ひどいことを言ってしまいそうだ!
けれど、腕に抱えた書類が、それを許してくれなくて。
息を吸って、平静に、と自分に言い聞かせて、ドアを開く。
「どうした、日本?」
「書類を、」
そう言って差し出すと、ああ。ありがとう、と受け取ってくれた。
いえ。と答えながら、うつむく。
いつもは見たくて仕方がないエメラルドを、今は見たくない。
「…?日本?どうした?」
声をかけられて、はっと顔を上げる。
心配そうな、表情。
「何か、気になることでもあるのか?」
…どう、返しましょうか…


「…仲、いいんですね…カナダさんと。」
「いえ、何でもないです。」
「………(答えない)。」