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「いえ、何でもないです。」

なんとか、笑顔を作ってそう答えると、そうか?と尋ねられた。
「ええ。…ああ、少し、疲れているのかもしれませんね。」
昨日眠れなくて、と適当に言い訳をでっちあげると、大丈夫か、と余計心配された。大丈夫です、平気ですから、と自分の作ってしまった嘘に慌てて。眠れなかった、のは本当だけれど、それくらいで疲れるほどじゃない。ちゃんと食事もとっているし。

「…まあ、無理するなよ?」
はい。うなずいて、心配そうな眼差しに感じる罪悪感から逃げようと、では、と部屋を出ようとして。

「あ。そうだ、日本。今日は夕食、外で食べてくるから。」
「はい、わかりました。…お仕事ですか?」
つい、尋ねてしまって、後悔した。
ふ、と頬に上る、優しい笑みに。

「いいや。…久しぶりにカナダと食べる約束、したから。」
「……そう、ですか……。」
よかったですね。なんとか、そう言って、足早に部屋を出た。
一瞬でもその部屋にいたくなかった。だって。
…泣きそうな顔なんて、見られたく、なかったから。

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