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完璧なデートコース。飽きさせないトーク。自然とできるエスコート。
「どうや?ロマーノ。」
隣を歩く自信満々のスペイン言葉に、ロマーノは唇を少し尖らせて、言った。
「ムカつく。」
「何やねんその感想…。」
何でー?デートとしては完璧やと思うんやけど…そうぼやくのを聞きながら、だからだよ、と思う。

だって、完璧であれば完璧であるほど。こいつは、女性とデートしてきたってことで。経験に裏づけされた自信、が、ちょっと、気に入らない。
自分だって女の子には声をかけずにはいられない性格だということは棚に上げて、ロマーノはむう、とふくれて、ポケットに手をつっこんだ。
手に触れる、感覚。もう一つ、デートを楽しめない、理由。

「…スペイン、ちょっと、悪い。」
「イタちゃんに電話?」
尋ねられて、うなずく。
あのじゃがいもから電話があったのは、出て行く間際のことだった。
『…うん、わかった。無理しなくていいから。』
仕事が入って、いつ抜けられるかわからなくなった、というのだ。
…待ってる。そう言った、あいつの顔が寂しそうなのが、本当に見ていられなかった。
今朝から、ドイツと一日デートなんだもんと、うれしそうに笑っていたのを、知っているから。

「…あんまり心配せんでも、大丈夫やと思うで?」
「…けど。」
「イタちゃん、いいから行って来てって言ったんやろ?」
言った。俺が、家出るのやめようとしたら、行っておいでよ、スペイン兄ちゃん待ってるよって。
俺は、ドイツ待ってるからって。

「…やったら、」
「あいつは!」
つい声を荒げてしまって、うつむく。別にスペインが悪いわけじゃ、ない。悪いのはあのじゃがいもだ。
「…待ってろって言われたら、いつまでも待ってるんだよ。」
ずっと、ずっと。
それこそ、何百年でも。
今日は、あいつも誕生日、なのに。
あんな寂しい顔で、今も一人でいるんだと思ったら。
「…大丈夫。」
頬に触れた優しい手のひら。温かい温度。
顔を上げると、柔らかい光をたたえた、オリーブが目の前にあった。

「ドイツも、それちゃんと知ってるはずや。…だから、大丈夫。」
な。そう言われて、少しだけ考えてから小さくうなずいた。
「ええお兄ちゃんやな、ロマーノ。」
「べ、別にあいつが心配なんじゃなくて、後で泣かれたらうっとおしいから、」
早口でまくしたてたら、わかってるわかってる、なんて笑われた。
「それじゃ、行こか。」

デートの続き、と差し出された手に、しょーがねーな、と手を乗せたら、手の甲にキスなんてしやがったから調子に乗るな!と蹴っ飛ばしてやった。

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がちゃん、とドアを開いたら、ベッドに寝転んだロマーノが携帯を見ているところだった。
小さく笑って、ほっとため息。お?と思って声をかける。

「ドイツ、来たって?」
「…ああ。」
あのやろー、今度一発殴ってやる。そういいながら、上機嫌にメールの返信をするロマーノ。その表情が、今日見た中で一番輝いている気がして、ちょっと妬けるなあ、とぼやいて、メールの送信が終わったらしい携帯を取り上げる。

「あっ!てめ、何してるんだよ!」
「やー、ヤキモチ?」
「はあ!?」
「やってロマーノ、俺の渾身のデートプランよりイタちゃんのメールの方が幸せそうなんやもん〜。」
俺がんばったのに、と携帯をベッドサイドのテーブルにおいて、ぎゅう、とロマーノを抱きしめる。

「う、うわ。」
「ロマーノの誕生日やから、俺めちゃくちゃがんばったのに…。」
はあ、と耳元でため息をついたら、びくん、と体が揺れた。
…ああ。そうだ。この子は、耳が弱い。
ロマーノ。囁くように呼べば、かあああっと耳たぶが赤く染まって。
…かわええ。そう思った瞬間に、ぐい、と顎を手のひらで押された。
「ぐえ。」
「〜〜っ!メシはどーした!腹減ったぞちくしょー!」
怒鳴られて、できたから呼びに来たんやんか…と呟く。

「じゃあ早く、」
「けどロマーノ。」
空腹の時って、性欲増すらしいねんけど?

そう言ったら、顔を火が出そうなほどトマト色に染めたロマーノに、ベッドの上から叩き落された。

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「ご満足いただけましたかお客様?」

食後のワインを飲むロマーノに、そう問いかけてやると、まあまあだな。と、言うわりにはとても満足そうな顔をしたロマーノの表情。

そりゃ何より。と笑う。この子のために腕によりをかけたのだ。完食しておかわりまでして、こんなに幸せそうに笑われたら、それ以上の幸福はない。
俺にも一杯ちょうだい、とグラスを出すと、ワインをそそいでくれた。いつもなら、自分で入れろちくしょーが、なのに。よっぽどご満悦らしい。

ロマーノ。そう、名前を呼ぼうとして、ふと気づいた。
彼がしているネクタイが、今朝していたものと、違う。
……うっそ。
それは、間違いなく、デートの最後に、家に帰ってくるまえに彼に渡した、誕生日プレゼントの、ネクタイで。

今まで、たくさんの誕生日を過ごしてきた。彼と一緒に。一緒じゃないときも、もちろんあったけれど。
その中で、送ったプレゼントもたくさんあるのだけれど、身につけられるものでも、部屋に飾るものでも、彼はいつも俺の前ではかくしてしまう。
後で、スペイン兄ちゃんが見てないとこではずっとつけてるんだよ、とかイタちゃんとかに教えてもらうのがいつもで。
なのに、今日は。

「…ろま、の。」
「…何だよ?」
ふふん、と勝気に笑った彼の顔。わかってるんだ。俺が気づいたことに。
けれど、気づいているんだろうか。
身長差から、少し上目遣い。酒のせいか、潤んだ目、赤く上気した頬。
それから、どこか艶めかしさを感じてしまう、笑み。
思わず、ごくん、とつばを飲んで。

「…ロマーノ。」
つまみに出したチーズに伸びた手を、つかんで、口元に運ぶ。
手の甲にキス。唇をつけたまま、なあ、知ってる?と尋ねる。
「何を?」
「男が服を贈る、意味。」
知らないわけがない。彼だって男だ。女の子への贈り物の意味、くらい。
案の定かっと真っ赤になったロマーノ。

「…ネクタイは、服のうちなのかよ、ちくしょー…。」
「えー、服やろ。たぶん。」
そんな軽口を叩きながら、握った手をそのままに、立ち上がった。
見上げてくるロマーノの前にひざまずいて、もう一度、手の甲にキスを送る。

「誕生日、おめでと。ロマーノ。」
「…おう。」
「誕生日祝いのフルコース、最後の料理があるんやけど…どうする?」
含みを持たせて尋ねると、彼は顔を赤くしたまま、両手を首に回して抱きついてきた。

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