.

がちゃん。
「あれ?何でまだいるんだ?」
てっきりもうイタリアちゃんの家に向かったと思っていた弟の姿を見つけて、きょとんとする。
今日は3月17日。イタリアちゃんの誕生日だ。
だから、もうとっくに家に行っていると思ったのに。(そしていない間にこっそり書類の山に期限遅れたやつおいといてやろうと思っていたのに。)

無言で書類を書き進めるドイツに、仕事が終わらなかったみたいだな、と推理。
そして、つまりイタリアちゃんは今一人かも、ということに気がついた。

「じゃあ俺がイタリアちゃんとこ」
「…だと…いる…」
「は?」
小さく呟かれた言葉が聞こえなくて聞き返したら、急に立ち上がったドイツに胸倉つかまれて、

「誰のせいだと思っている!!」
思いっきり怒鳴られた。

「昨日までに全て終わらせるつもりだった仕事がどうしてこんな時間まで伸びていると思っている?一週間前提出の書類をまったく書かなかった誰かさんのおかげなんだが誰のせいだと思う?誰のせいだ言ってみろ!!」
「すみません俺ですごめんなさい!」
反射的に謝った。マジ怖かった。ここまでぶち切れたドイツは久しぶりに見た。

縮こまっていたら、深いため息とともに離された。どさ、としりもちをついてしまって、見上げる。
彼は、また椅子に座りなおして、机に向かって。
「…え、えっと、何か、することあるか…?」
「邪魔をするな。以上だ。」
「………ハイ。」

まだ怒りのオーラをまとう弟に、余計な手出ししたら殺される、と顔を引きつらせて、そろそろと部屋を出た。


次へ(西ロマ編1へ)
次へ(独伊編2へ)
戻る


























.


仕事を全速力で終わらせて、コートを引っつかんで家を出たときにはもう、あたりは暗くなり始めていた。
とにかく大急ぎで最短距離でイタリアの家へと急ぎ、いつも開いているドアをベルも鳴らさず開けて、イタリア!と怒鳴る。

そうすれば、だだだだだ、と奥から走ってくる音。
「ドイツ!!」
飛びつかれて、しっかりと抱きとめる。
「遅くなってすまない。」
「ううん、ドイツが来てくれただけでもう十分だよ!」
本当に心からの笑顔で、そんなことを言うから、何だか泣きそうになりながら抱きしめる。
「…すまない…。」

気づいていないとでも思ったのだろうか。電話をしたときの、沈んだ声に。
気づかないとでも思っているのだろうか。目に残った涙の跡に。
それを、全部抱えた上で、こいつは、こうやって笑うのだ。心底うれしそうに。ドイツが来てくれただけで、十分、だなんて。

「…ううん。ほんとーに。」
ドイツが来てくれただけで、もう一番の誕生日プレゼントだから。
そう言って擦り寄ってくるイタリアが愛しくて、力いっぱい抱き寄せて、頬を緩ませた。
それからふと思いついて、片手をコートのポケットに入れる。

「そうか。じゃあ、これはいらないんだな?」
からかうように言えば、ヴェ?と顔が上がった。
ポケットから出した、プレゼント包装のされた箱。
「え、何、誕生日プレゼント?俺に?」
途端に目を輝かせだすイタリアに、噴き出しそうになりながら、俺がいれば十分なんだろう?とポケットの中に戻すような動作。
「い、いる!」
「そうか。なら、俺はいらないんだな?」
しれっと言えば、う〜、とうなるから、くすくす笑ってしまう。
「どっちもいる!!」
ドイツのいじわる!と泣きそうな目で見上げられて、そうだろう、と抱き寄せる。

「言え。」
「…ドイツ?」
「我慢なんかしなくていい。して欲しいことも、思ってることも、全部、言え。そうでないと、わからない。…全部受け止めるから。」
今日でなくても。いつでも、だ。そう囁いた。心の底からの言葉。
イタリアはしばらく黙った後、小さく、肩を震わせた。

「…寂しかった。」
「ああ。」
「悲しかった、だって、今日、ほんとに楽しみにしてたのに、なのに…っ!」
震える語尾に、すまない、ともう一度だけ謝って、強く強く抱きついてくるイタリアの背中を優しく撫でた。


次へ(西ロマ編2へ)
次へ(独伊編3へ)
戻る





















.

「ほら。」
うながされて、唇を開けば、ドイツの太い指が苺を食べさせてくれる。
「おいしい!」
「そうか。」
暇だったし気が紛れるから、と作っていた料理で夕食をとり、今は、ソファで果物を食べている。
ドイツの膝の上に横向きに座って、次はりんご!とリクエストすれば、はいはい、と一口大に切った果物をドイツが口に運んでくれる。

ぽす、と厚い胸板にもたれかかる。擦り寄れば、ドイツの匂いがするのが、もう本当に幸せ。
「イタリア。」
呼ばれて顔を上げると、口の端を舐められた。甘いな。そう呟く、ドイツの声の方が甘い!

「ほら、りんご。」
口元に差し出されたそれに、あむ、とかぶりつく。しゃく、と噛めば、甘い味が広がる。
「次は?」
「キス。」
そう言って見上げる。…はいはい。苦笑して、キスをしてくれた。

今日の残りの時間は、何でも言うこと聞いてやるから。そう言ったドイツは、本当にそうしてくれた。
夕食もドイツの膝の上だったし、今もこうやって、果物を食べさせてくれてる。夕食の後で入ったお風呂も、一緒に入ろうと言ったら、本当に一緒に入ってくれた!

ドイツに甘やかされている。よく、他の人から言われることだけど、今は本当にそう感じる。
何より、その蒼い瞳が、とてもとても、甘くて優しい光を宿している。
とろとろに溶かした、甘いシロップみたいな空気に、ほう、とため息をついて。

「幸せ」
思わず呟いたら、それはよかった、とため息が聞こえた。
「ドイツまだ気にしてるの?」
大遅刻のことを、彼はひどく気にしているようで。
「…まあ。」
「もう…それは、これで帳消しって言ったじゃん!」

ほら、と手首につけた腕時計を見せる。ドイツがくれた、誕生日プレゼント。
もちろん、くれたこともうれしいんだけど、それ以上に、いいなあ、って言ったのはずっと前で、しかもこっそり言っただけ。なのに、それをちゃんと覚えていてくれたことが何よりうれしいんだ!
ね!と笑顔を見せると、わしゃわしゃと頭を撫でられた。
「…ありがとな。」
ちゅ、と耳にキスされて、きゃあ、と甘い悲鳴を上げた。

「イタリア。」
「なにー?」
誕生日、おめでとう。そう、低くて甘い声で言われて、えへへーと笑ってお礼を言った。

次へ(西ロマ編3へ)
次へ(独伊編(18禁)へ)
戻る