95 恐怖の遊園地

1999.12


 

 今はもうなくなってしまったが、横浜の野毛山動物園の隣に、野毛山遊園地というのがあった。

 この遊園地は、ぼくが幼いころ、よく親に連れていってもらったところで、木馬にのってスマしている写真なんかが今でも残っている。何で、たかが木馬にまたがったぐらいのことで、あんなにエラソウな気分になれたのか。子供とはまことに不可解な動物である。

 そのころ、何事にもあとをひくタチだったぼくは、遊園地からバスで帰ってきて、家の近くのバス停を降りるとすぐに、家に帰るのが嫌だ、もう一回行くんだといって、地面に座り込んで泣いたものだ。何事も、どうでもよくなっている最近のぼくから見れば、その「情熱」こそ貴重なものに思える。泣き叫んで駄々をこねるほど、もう一度行きたい所がどこにもないなんて、ずいぶん情けないことのような気もするのだ。

 それはそうと、この遊園地には、なかなか怖い「伝説」があった。何という名称か忘れたが、要するに一本のポールからワイヤーで吊された何台かのヒコーキがぐるぐる回るというよくあるヤツ。ある時そのヒコーキの一台のワイヤーが切れて、実際に飛んでいってしまったというのだ。

 事実だったのかどうか未だに分からないのだが、とにかく、横浜の町を見下ろす丘の上にあったその遊園地のことだから、けっこう遠くまで飛んでいったのではなかったか。「乗客」がいたのか、いなかったのか、そのヒコーキは、どのへんに「不時着」(飛ぶこと自体「不時飛行」だが)したのか、いっさい知らないのだが、そのヒコーキを見るたびに、怖いなあと思ったものだ。だからもちろん、乗らなかった。

 高いところも好きじゃなかったけれど、観覧車には乗った。ところが、ある時、その観覧車から降りた直後、ものすごい大粒の雨。やがてその雨はまれにみるもの凄いヒョウとなり、落雷につぐ落雷で停電し、観覧車は乗客を乗せたまま、ストップしてしまった。一応ハコには屋根がついていたはずだが、いちばんてっぺんに来て止まってしまったハコの乗客は、大ヒョウと、もの凄いカミナリの中、生きた心地もなかったことだろう。何となく、その乗客の恐怖にゆがんだ顔が脳裏に残っているような気がする。

 遊園地と言えば、楽しいところと相場は決まっているが、ぼくにとってはどうも恐怖の場所で、好きこのんで行きたい場所ではない。