85 ジュルジュル系

1999.9


 

 ぼくが生まれ育った家は横浜の中心街にあったが、それでも小さな庭があり、柿の木もあったので、柿という果物は買って食べるものだとは思っていなかった。とうぜん、庭からとってきて食べるものだったのである。

 その柿の木になる柿の実が、いわゆる渋柿というものらしく、ボールを上下からつぶしたような形をした大きい柿だったが、実の硬いうちは渋くて食べられなかった。ぼくがまだ小学校の低学年のころ、そのちょっと渋めの柿を食べた祖母がひどい便秘になって寝込んでしまい、うんうんうなって苦しがっていたのを見て以来、渋い柿への恐怖感まで植え付けられてしまった。

 それで柿というものは、もうほとんど枝から落ちてしまいそうに熟したものしか食べたことがなかったし、柿というものはそういう果物だと思っていた。皮をむけばいきなりジャムという感じの熟し柿である。それほど熟れていても、場所によってかすかな渋みがあったりして、そういうときは、すぐに便秘のことが頭に浮かんだ。

 果肉をジュルジュル食べていると、種が出てくる。その種の周りに、プルプルのゼリー状のものがついている。これもまた絶品。そんなわけだから、買ってきた固い柿をリンゴのように切って、楊枝やフォークで刺して食べても、どうもいまいちピンとこないのだ。かといって、触ればブチュッと崩れるような柿をスーパーで売ってるわけもないから、柿は近頃ほとんど食べない。

 ぼくは汁が多くて、ジュルジュルしたものが好きだが、この傾向は、どうもこうした柿体験から来ているらしい。

 桃も、もう腐る寸前のようなドロドロになった果肉がいい。もっとも、我が家では、そんなになるまで桃を置いておかないから、ぼくの口に入るのは、切りわけてその切り口に角があるような桃だけれど、ほんとはグチャグチャな桃にまるごと食いついて、啜るような食べ方をしたいのだ。

 イチジクを甘く煮たやつも、けっこうジュルジュル系でうまいと思うのだが、これも我が家ではお目にかからない。梨の場合は日本の梨のサクサクした食感もそれなりに好きなのだが、やはり洋梨のねっとりとした感じには一歩も二歩も譲る。

 とにかくパサパサしたものは嫌い。だからパンにはできることならジャムを山盛りに塗りたいものだ。いやいっそのことジャムだけををひたすらなめ続けていたいなんて思う。もっとも体重や糖尿病を気にしなくていいのならの話だから、実現はしないのだが。