70 働きアリはみんなメス

1999.7


 

「いやー、最近は女子の方が強くって、生徒会長も応援団長もみんな女子ですよ。修学旅行だって楽なもんです。男子はぜんぜん相手にされてないんですから。」

 ある都立高校の先生の話である。ぼくが都立高校に勤めていた20年ほど前は、修学旅行はずいぶん気を使ったものだ。消灯時間を過ぎても、男子生徒が女子生徒の部屋にいたり、あるいは逆に女子が男子の部屋に入り込んだりするものだから、その見回りで睡眠時間も3時間なんて当たり前だった。帰ってくると疲れで歯が浮いたものだ。それが、今ではその心配もないとは、決して悪いことではないけれど、何だか情けないような気もする。

 「働きアリはみんなメスです」

 テレビの動物バラエティ番組。ゲストの芸能人はわざとらしい驚きの声をあげる。ぼくは、何だそんなこと当たり前じゃないかと思いつつ、やっぱり一種の驚きを感じている。

 「オスはみんな怠け者」とつづく。「しかも、交尾が終わると、オスはすぐに死んでしまうのです。」

 なるほどね。男はもともとそういうふうに出来ているんだ、と妙に納得してしまうのだ。

 そもそも自然界では、メスだけいればいいんだという話をどこかで聞いたことがある。ただメスだけの単性生殖だと、種が画一化してしまう。その画一化を防ぎ、多様性を与えるためにオスが必要なのだそうだ。

 女が作るキマジメな社会を、怠け者の男が混ぜっ返す。そのことで社会の多様性が生まれる。お笑い芸人はやはり男が多いのはその点からもうなずける。女の芸人で、男のようなとぼけた味をだせる人はなかなかいない。プロレスも男子の場合はどことなくユーモラスなところがあるが、女子は妙に悲壮だ。女子プロレスで死者が出てしまうのは、あながち体力の問題だけではないのかもしれない。

 女子の生徒会長や応援団長に「あんたたち、しっかりしなさいよ!」と尻たたかれながら、体育館や校庭の隅っこで、「チェッ、早く帰りてえなあ」なんてブツブツ言っている男子生徒は傍目にも気の毒にも思えるが、そういう君たちこそ文化の担い手なんだぜと言ってあげたい気持ちにもなるのだ。彼らがそういう自分たちの役割に気づくかどうかはなはだ心もとないのだが。