62 うれしがらせて

1999.4


 4年前に、ふとしたことで申し込んだ大腸ガン検査で、S字結腸に3ミリ程度のポリープが二つ見つかり、その場で切除。翌年も検査をしたがそのときは何もなかった。

 それから2年半がたったので、この4月にまた内視鏡の検査を受けた。一口で内視鏡検査とは言っても、これがなかなかの代物で、検査の前日の食事はお粥みたいな検査食だけ、夜になると大量の下剤と水を飲み、腸の中を空っぽにする。検査の当日になると、病院でまた大量の下剤を飲まされ、その便を看護婦が見てお許しが出ると、検査となる運び。検査は肛門から管を突っ込まれて、大腸の奥の方からモニターで医者と一緒に「見学」するのである。

 今回も「見学」は順調に進み、直腸まで来て、若い医者は「山本さん、今回は何もなかったですよ。よかったですねえ。」と明るい声で言う。そうか、なかったのかと思わず笑みがこぼれる。「じゃ横を向いて下さい。」やれやれこれで終わりだ。モニターはもう見えない。と、そのとき「あれー、こんな所にあるなあ。」と医者の声。えっ、何?あったの?「残念でした。一つありましたよ。4ミリ位ですね。今、とりますからね。」頭の中に三橋美智也の「うれしがら〜せ〜て〜、泣かせ〜て〜消え〜た〜」の歌が流れる。すると、医者がややあわてた声で「山本さん、何か血の止まりにくくなる薬飲んでますか?」「い、いえ」「そうですか。おかしいなあ。」血が止まらないだと。冗談じゃないぜ。もう三橋美智也どころではない。レクイエムが聞こえてきそうだ。

 検査が終わって、切除したポリープを見せられた。いじらしいほどちっちゃい肉片である。「これは組織検査をします。あ、それからもし家に帰って大出血したら、救急病院へ行ってください。まあ、そんなことはないと思いますけど。」何?救急病院?大出血ってどういうの?不安の渦巻く中を、帰宅。食欲もなかった。

 その日、大出血はやはりなかった。組織検査の結果を聞きに後日病院へ行くと、その若い医者はニコニコ笑って、「ガンとか、そういうものはでませんでした。よかったですね。でも、腺種、野球選手の選手じゃありませんよ、(と腺という字を書いて)というものですから、ほっておいてもいいものでもありません。2、3年に一回は検査したほうがいいと思いますよ。」と優しく言った。今度は、「うれしがらせて」それでおしまいだった。食欲もあって、地下街で鴨ナンソバを食って帰った。