61 究極の焼き芋

1999.4


 

 教師になりたての頃、都立高校では必修クラブというものの試行が始まっていた。週1時間だが、教師の方で好きなことをテーマにしてよいということになっていた。ぼくは、どういう風の吹き回しだったのか、「陶芸クラブ」というものをやってみることにした。まったく経験がなかったのに、それで陶芸の指導をしようというのだから厚かましいものである。もっとも、指導などは何もしないで、ただ生徒と一緒に陶芸らしきものをやっただけだったのだが。

 ところで、陶芸をやるには、どうしても窯が必要である。そこで、室内でも使えるプロパン窯を購入したのだが、説明書を読むと、使用する前に空焚きをせよとある。外の階段の踊り場で空焚きをすることにしたのだが、ただ空焚きだけしたのでは何だかもったいない。

 そこで思い出したのが、芋である。学校は、町田市の桑畑の中に新しく出来たばかりだったので、校地にもまだ余裕があって、その校地の一角でサツマイモを作っていた教師がいた。まことに暢気な話だが、学校というところは、そういう遊びができるところがいい。ちょうど収穫したばかりのサツマイモがたくさんあったので、それをもらってきて、空焚きをする窯の中に入れてみた。

 たしか30分ほどの空焚きだったと思う。中の芋はどうなったかと、おそるおそる開けてみると、案の定芋は真っ黒になっている。焼き芋どころではない。完全な炭である。やはりだめか、何と言っても陶芸窯だものなあ、と思いながら、試しにその炭のような芋を割ってみた。すると何ということか、厚さ2センチもあろうかと思われる炭化した皮(?)の中に、まさに黄金色に輝く芋があるではないか。しかも、それを食べてみて絶句した。とろけるような甘さ、ホクホク感。それは焼き芋の概念を完全に越えた何か別の食べ物だった。

 その日の職員会議に出席すると、テーブルの上には、みなさんどうぞとばかりに、収穫した芋を蒸かしたものがずらりと並んでいた。みんなうまいうまいと食べていたが、ぼくはそのベチャッとした食感に、これが同じあのサツマイモなのかとあきれるばかりだった。

 焼き芋は、高温で焼くほど甘味が強くなるようだ。陶芸窯の中で、ガンガン焼かれた焼き芋は、そういう意味ではまさに究極の焼き芋だったのだろう。しかし「陶芸クラブ」の指導者としては、その窯で二度と芋を焼くことはやはりできなかった。