52 どんぐりころころ

1999.2


 卒業記念品というものがある。卒業生が、学校への感謝の印として、学校に寄贈するものだ。一人一人の感謝の気持ちを確かめてから決めるものではないから、まあ一種の強制的な寄付のようなものだ。

 今年の記念品を何にしようかと生徒に聞いたのだが、あまり関心がないらしく、意見が出ない。じゃあ、こっちで考えるけれどそれでいいね、ということで、いろいろ考えたすえ、体育館の前に木を植えたいと思った。以前、そこにヒマラヤ杉を何本か移植したのだが、時期が悪かったせいで、あっという間に枯れてしまったのである。それが残念だった。

 しかし、またヒマラヤ杉というのも芸がない。かと言って、落葉樹では落ち葉の掃除が大変だ。用務の人は、毎年プラタナスの落ち葉の掃除で四苦八苦している。ここはやはり、常緑樹、それも広葉樹がいいと思った。

 そこで候補にあがったのが、椎と樫である。マテバシイか、シラカシか。椎の実学園というのもあったなあ、しかし、椎はすでに学校のあちこちにある。ここは、強さの象徴でもある、樫がいいかなどと他の教師たちとも相談して、樫の木にきめた。

 「わたしたち卒業生の学園への感謝の印として、体育館前に、樫の木の並木をお贈りします」と生徒の代表が読んだ原稿も僕が書いた。ヤラセもいいところである。単に「樫の木」と言わずに、「樫の木の並木」と言ったところがみそなのに「苗木を贈るのに並木なんて大げさだ」と言った教師がいた。うるさいものである。「違いますよ。最初から大きな木を買うんです。」予算は80万円ぐらいはある。そんなに苗木を買ったら、学校中樫の木だらけになってしまう。

 「樫は、実がならないんだよね。」と、別の教師が口をはさむ。「そうだったっけ。何か生るんじゃないかなあ。どんぐりとか。」「どんぐりが生るのは、どんぐりの木だよ。」「そんな木ないよ。」「椎の木か?」「椎の木は、椎の実でしょうが。」「椎の実だって、どんぐりだろ。」「え?そうなの?」まったく恥ずかしい会話である。

 こういう時は調べるに限る。人の言ってることを信用していては、正確な知識は身につかぬ。「どんぐり」で調べると「樫・くぬぎ・楢などの実の総称。特にくぬぎの実。」とある。袴をはいたやつをどんぐりといい、椎の実は袴をはいてないから、どんぐりとは言わない。考えてみれば、こんなことも知らないで、どんぐりころころなんて歌っているのだ。もっとも、知っている人は、ちゃんと知っているのだろうが。

 今年の秋は、体育館の前で、どんぐりを拾えるだろうか。楽しみである。