5 オヤジギャグの逆襲

1998.4


 ドッグフードのCMで、藤岡弘が「なるへそ」という言葉を使っている。ずいぶん昔ぼくらが使った駄洒落で、なつかしい。なんで「なるほど」が「なるへそ」になるのかよくわからないが、藤岡が堂々と使うと、自分も使いたくなる。で、このごろはすぐに「なるへそ」と言ってしまう。「なるほど」と言ったときより、なんかしっくりきて、自分でじっくりうなずくのにとても塩梅がよい。「ほど」と言うと発音に力が入らないのだが、「へそ」と言うと、「そ」にたっぷり力を入れることができる。だからかもしれない。

 漱石の「猫」だったかには、「なある」というのが出てくる。たしか高校時代だったか、感心するとこれをマネして「なある」と伸ばしていい、そこにいる友人が「ほーど」と伸ばして答えるというのをずいぶんやった。「ほーど」と答えるのはぼくらの発明だったと思うが、とにかく「なるほど」という言葉は、どうも変形を加えたくなる言葉らしい。

 それはそれとして、さきほどのCMで、藤岡は続けて「栄養はエーヨー」という古典的な駄洒落を言うのだが、オヤジギャグと言って軽蔑されるこうした駄洒落でも照れずに言うとなかなかいいものだ。ちょっと駄洒落を言うと、若い人は「ああ、オヤジギャグだ」と言って侮蔑的な眼差しを投げるが、では、彼らはどんな面白いギャグを使っているというのだろうか。聞かせてもらいたいものだ。

 駄洒落は、古典的で、もっとも身近で、もっとも楽しい言葉あそびだ。それは豊富な語彙力を要求する。ひょっとしたら近頃の若い者はボキャブラリー不足で、駄洒落も言えないだけなのではないか。そうだとしたら、かまうことはない。何と言われようと、ため込んだボキャブラリーを総動員して、若い者には思いもつかない駄洒落を連発してみようではないか。そうすれば、彼らはあっけにとられて、少しは尊敬の眼差しを投げかけてくるかも知れない。まあ、無理か……。