49 恐怖の一夜

1999.2


 家内が土曜日に、ハワイに行ってしまった。

 趣味の写真で日本全国の波を撮り続けてきた家内の父が、とうとう日本では我慢が出来なくなり、ハワイの波を撮りに行くというので、それに付き添って行ったのである。怖くてヒコーキにいまだ乗ったことがない上に、仕事のある我が身としては、当然留守番ということになった。

 家内が昼過ぎに「お大事に」と言い残して出かけたあと、1週間がかかりでひいていた風邪のせいで、何となく頭も重く、嫌な気分だったのだが、その夜のテレビで放映された『リング』という映画を見るはめになった。その日上映開始となった『リング2』へのつなぎという意味もあったのだろうが、その『リング2』と同時上映される『死国』がぼくが応援している長崎俊一監督の久々の作品なので、どうせ『リング2』を見ることにもなるだろうから、それなら『リング』も見ておこうと思ったのだ。

 それが間違いだった。そもそも、ぼくは昔からホラー映画が苦手である。本気で怖くなってしまうのである。映画だけではない、怖い話を聞くのも苦手だし、遊園地の「お化け屋敷」にすら入ったことはない。それが、夜に、たった一人で、『リング』である。ホラー映画で怖いのは、お化けもそうだが、「家」というものだ。とくに『リング』では「家」がこわい。まして、お化けが「テレビ」から出てくるのである。その映画をテレビで見る。夜、一人で、風邪で体調が悪いときに。しかも、玄関の方で、今にも死にそうな老犬が、ゲホゲホと嫌な咳をしている家で。

 見終わったあと、皮膚がざらつくような感じが残り、いつまでも消えない。久しぶりに風呂に入ろうとして、風呂のふたをあけるとき、風呂の水が真っ赤だったりして……、死体が浮かんでたりして……なんて、心の中で冗談に呟いていたら、ほんとに鳥肌がたって、ギャアと叫びそうになってしまった。

 その晩、とうとう寝付けず、夜中の3時頃に起き出して、ワープロなど打ち出したぼくは、ふとキーボードを叩く音に『シャイニング』の一場面を想像してしまい、またまた身震いしたのであった。