41 朝のひととき
1998.12
ぼくの勤務校には各教科の研究室があるが、その中でもぼくの属する国語科の研究室は、けっこう洒落た雰囲気がある。
社会科研究室などは、教科の性質上か、教師の性格上か知らないが、とにかく資料と称するもの(ぼくにはゴミとしか思えないが)の山で、家具の類もガラクタばかりだ。ところが、国語科は使いふるしとはいえちゃんとしたソファーがあり、冷蔵庫に、電子レンジ、コーヒーメーカーまで完備している。そこに最近、CDラジカセを入れた。本当はオーディオセットといきたいところだが、そこまでやるとかえってイヤミというものだろう。
朝、国語科研究室に行くと、早くきた教師がコーヒーをいれている。CDラジカセからはピアノ曲が流れている。どこかで聞いた曲だ。
「ショパンかい?」
「いやあ、サティですよ。3つのジムノペッティ。」
「ああ、太田胃酸のCMのか……」
「え?、いや、あれは、ショパンの雨だれでしょう。」
まったく、クラッシック好きをきどっても、これじゃ話にならない。ピアノを聞けば、「ショパンかい?」では、カラオケしか知らないオヤジと同じだ。「あれ、サティだね」と軽くいきたかった。
「曲は知っているし、サティも知っているのに、二つが結び付かなかったよ。」
やれやれ、弁解にも何にもなりゃしない。しばらく、音楽の話が続く。
「ベートーベンの交響曲は、昔、7番ってうるさくて嫌いだったんだけど、今は好きだな。」
「いやー、7番は最高ですよ。でも、ぼくは、ロマン派の長いのは好きじゃない。」
「シューベルトのザ・グレイトとかだめかい?」
「昔はずいぶん聞きましたけどね。」
「通俗的かもしれないけど、シューベルトの鱒は、やっぱりいいね。それからベートーベンのテンペストも。」
朝の15分。学校の始まる前のひととき。掃除の監督をもっとちゃんとやってもらわなきゃ困るじゃないかと、校長たちから昨日叱責されたことも忘れていられる、透明な朝の時間だ。