39 ファンタは色だ!

1998.12


 

 ファンタオレンジをはじめて飲んだのは、確かぼくが中学3年のころ、(つまり東京オリンピックのあった年)のことだったかと思う。学校の体育祭で、校庭にジュース屋ができ、そこで買ったことを鮮やかに覚えている。

 ぼくの記憶では、それまでオレンジジュースというものは、炭酸の入ったものはなく、炭酸系のものはサイダーかラムネと決まっていた。オレンジジュースは、バヤリースオレンジやリボンジュース、ちょっと変わったところで、タケダのプラッシーといったところが定番だった。

 だから、ファンタオレンジを飲んだときはびっくりした。オレンジジュースなのに炭酸なのだ。そのうまさは一種の衝撃だった。もちろんその衝撃ははじめて飲んだコーラの「何だこのくすりみたいな味は!」に比べれば、数段おだやかなものだったが。

 ファンタにはオレンジばかりではなく、グレープも発売されて、しかもその鮮やかな色彩がぼくを更に喜ばせた。ぼくは今でもそうなのだが、どぎつい色のついた飲み物になぜか心ひかれるのだ。

 それなのに、今から何10年前のことだろうか、合成着色料のことが問題になり、ファンタはその鮮やかな色彩を失った。毒々しいオレンジ色や、プドウ色は、「より自然な」くすんだ色に変わった。とくに、ファンタグレープは、見る影もなかった。「より自然に」と言ったところで、ファンタには果汁など一滴も入ってはいないのだ。ぼくらは本物のオレンジやブドウの味や香りやビタミンを求めてファンタを飲んでいたわけじゃない。幼い頃に、朝顔の花を絞ってジュースを作って遊んだころの「色水」への郷愁だってそこにあったといってもいい。合成着色料の色をどぎつい色から「自然な」色に変えたたらといって、それが何だというのだろう。

 その不自然な甘さと、炭酸の刺激と、本物のオレンジやグレープ以上にきれいな色に魅了されて、ぼくらはファンタを飲んだのではなかったか。ああ、もう一度、あのえのぐを溶かしたみたいなファンタを心ゆくまで飲んでみたいものだ。