26 電話は困る

1998.9


 電話が鳴ったので、出た。いきなり、50がらみのオバサンの声が怒鳴りだした。

「あんた、何やってんのよ。いいかげんにしてよ。ファックスを2枚も送りつけてさ。」とすごい剣幕である。

「ちょっと待ってくださいよ。どちらにおかけですか?」

「どちらって、ファックス送ってきたのはあんただろ。冗談じゃないよ。」

「ファックスなんて送ってませんよ。どちらの電話番号におかけなんですか。」

つとめて冷静を保ちつつの応対である。我ながら立派なものだ。

「えーとね、845の7645345……」(番号は適当にかえてあります。念のため。)

「待ってくださいよ。そんな長い電話番号なんてないでしょ。最初の845というのはおかしいでしょ。それは市外局番の045なんじゃないですか?」たぶん、通信元の0の数字が、斜めに棒の入ったやつなんだろう。

「あら、そうねえ、これ、0かもしれないわねぇ。」

と幾分トーンダウンである。

「えーと、ですから、こちらの電話番号ではないんですよ。」

「そうね。じゃかけ直してみます。」

 スミマセン、はなかった。それにしても、市外局番から7けただけかけてくるというのはどういう神経なのだろうか。あとの3つの数字はどうするんだ。

 いきなりオバサンに怒鳴られて、何にも悪いことはしてないのに、悪いことをしていたような気分になってしまった。

 また、電話。今度は、リフォームの勧誘らしい。めんどくさいから、いつもの手を使う。

「あのー、ぼく、よくわかんないんです。」

「あら、ご主人じゃないの?」

「ええ、父はまだ帰ってませんけど……」

「あ、そう、じゃまた電話するわね。」

 やれやれ、簡単に引き下がってくれた。

 ぼくの声は、どうしても電話に出ると高くなってしまい、よく子供と間違えられるのだ。その応用である。しゃべり方も、自信なさそうにする。もっとも、わざとそうしなくても、電話だと自信なさそうなしゃべり方になってしまう。

 生徒の家に電話して、うっかり「教員の」を付け忘れて「あの、ヤマモトですけど、○○君は…」といいかけると、「あっ、ちょっと待ってね。」と電話を置いて、「○○ちゃん、ヤマモト君から電話よー。」と呼ぶ声。○○君と話し終わると、○○君は「ちょっと待ってください。母が…」と言って母とかわり、そのあと決まって「セッンセー、スッミマセーン。てっきり、お友達だと…」となる。

 いやはや、電話は困ったものだ。